「私はまだ提出してないんだ!」

 元気に返事をすると僕の隣までやって来る。

「そっかぁー」

 そうして何事もなかったかのように僕もまた歩みを進めた。

 二人並んで。

「進路って難しいよね」
「うん、ほんとに」
「まだ僕たち十七歳なのにそんな自分の将来のことなんて分かるわけないじゃんね」

 ーーまだ十七歳なのか。
 ーーもう十七歳なのか。

 果たしてどちらが正しいのだろう。

 真っ直ぐ伸びる長い道を二人並んでゆっくり歩いた。


「今日岩倉さんと話せてよかったぁ」
「え、私?」
「うん。だってあのまま話せなくなるかと思ったよ」
「へ? …あー、うん?」

 理解しているようなしていないような相槌を打ったあとしばらく考え込んで、「え、じゃあ」と僕を見ると、

「もしかしてお昼休みのあれって私に声かけようとしてたの……?」

 記憶が手繰り寄せられたのか、思い出したように言葉を紡ぐから。

「えっ、うそ! 僕が声かけようとしてたの気づいたの?!」
「う、うん、だって目も合ったし…」
「あ、ああ、そっか」

 そりゃそうか。あんなわざとらしい逸らし方、むしろ気にするなって方が無理だもんね。

 でも、なんか。

 「うあー、恥ずかしい……」

 穴があったら入りたい、とはまさしくこのことだーーと顔を逸らして赤面していると、ふふっ、と笑い声が漏れる。

「な、なんで笑ってるの……」

 ちら、と彼女の方へ視線を向ければ、口元に手を添えて、

「だってなんかさっきから浜野くん、コロコロと表情が変わるんだもん」

 笑いを堪えているようだった。

「そ、そりゃあ僕も人間だから笑ったり照れたり恥ずかしがったりするよ」
「その言い方だとなんか照れてばかりみたいだね」

 売り言葉に買い言葉。まるで、いつも夏樹と言い合うときのような懐かしさを感じる。