彼女の言葉に、そうそう、と頷きながら、

「せっかくちゃんと書いたのに突き返されちゃったんだよねぇ」
「でも、どうして返されたの?」
「なんか提出期間がまだ二週間もあるからもう一度考えてみなさいって。僕はこれでいいって言ったのに」

 まあ、進路表を折るのはいけないんだけれど……とうわの空でいると。

「浜野くんは、お医者さんか先生になりたいの?」
「……えっ?」
「ーーあっ、ごめんなさい!」

 ……あー、そっか。そういえば、落ちてた紙ヒコーキが誰のなのか確認するために広げてみたって言ってたっけ。

「何にやりたいかなんて今は分からないかなぁ」

 なんて誤魔化すと、そっか、と返事をしたあとに、ほんとにごめんね、と何度も謝った岩倉さん。

「いや、大丈夫だよ」
「で、でも、勝手に見ちゃったのは確かだから……」
「うん、でもそのおかげで僕の手元に戻ってきたんだし」

 そのまま返ってこなければ、僕はまた欲しくもない進路表を先生のところまで貰いに行くはめになっていただろう。

それに、進路表が僕の手元に戻ってくるなんて想像もしていなかった。
先生たちからすれば早く提出してくれた方が助かるはずなのに。

 ーーでも、今思うと。

「戻ってきてよかったのかも」

そう呟くと、え、と困惑した声を漏らした岩倉さんは、瞬きを数回繰り返したあと。

「進路表が返ってきたのによかったの?」
「うん」
「どうして?」

 〝岩倉さんと話すことができたから〟

 ーーなんてことは言えないので、のどまで出かかった言葉をごくりと飲み込んで。

「内緒」

 と、自分の唇の前に人差し指を立てる。

「そこまで言ったなら教えてくれてもいいのに」

 教えなかったのがよっぽど悔しかったのか、頬を膨らませた。

 今までの僕なら進路という話題は避けてきたのに、どうして彼女にはこんなに簡単に話せちゃうんだろう。

「岩倉さんは?」

 それがすごく不思議だった。

「ん?」
「進路表提出した?」
「……え?」

 僕が彼女へ視線を向けると、彼女は隣にいなかった。
「あれ」困惑しながら振り向くと、その場で立ち止まる彼女が視界に映り込んだ。

「えーっと、あの、今のは」

 もしかして僕、聞いてはいけない何かを聞いてしまったのだろうか。

 ーーだが、それも杞憂に終わる。