「えっ、僕が変?!」
「ううん、そうじゃなくて…っ!」
右に左に視線を動かしたあと、なんかね、と観念したかのように口を開く。
「いつも楽しそうに笑ってる姿しか見たことなかったから、浜野くんの慌ててる姿がすごく新鮮で」
その言葉の先に続くのは〝だからおかしかった〟のはずなのに、なぜか僕は不思議と嫌じゃなかった。
岩倉さんの笑った顔をここまで近くで見たのは初めてで、僕は気が緩む。
「うん、探してたんだよね」
だから僕は、
「岩倉さんと話がしたいと思って」
誤魔化すことはやめた。
「えっ、私と……?」
少し驚いた表情と照れたような表情を混在させると目を逸らす。
「今朝言ったじゃん。これからは遠慮なく話しかけてもいい?って。でも、なかなかタイミングが合わなくて今になっちゃったんだけど。でも、今日が終わる前に話せてよかった!」
例え、帰り道のほんの一瞬だったとしても話せたことには変わりはない。
「だからさ、もう少しだけ話さない?」
今度は誰にも邪魔されない。
「……うん、いいよ」
彼女の返事を聞いて僕は反対側で小さくガッツポーズをする。
さっきまで灰色だった心は、晴れ模様。
彼女の言葉一つで一喜一憂してしまう。
これって、恋か? ……なんてそんなはずないよな。
彼女と二人並んで道を歩いた。
今までならありえないような日常。帰り道は一人で帰るものだと思っていたから。
だからきっとこれは神様が与えてくれたご褒美なのかもしれない、なんて思っていると、
「あの、浜野くん」
彼女の声にハッとして、僕は妄想を首を振ってかき消した。
「どうして進路表を紙ヒコーキにしたの?」
なんの脈絡もなく告げられた突然の言葉に、え、と困惑した声を漏らす僕。
「あっ、えっとね! 特に理由はないんだけど、ただ、なんとなく気になっちゃったの……!」
それもそのはず。なぜならば、彼女が僕の紙ヒコーキを拾ってくれた人物だからだ。
「あー、それは…」
放課後に男子校生が一人屋上で紙ヒコーキを飛ばしてた、なんて誤解されたらさすがの僕も恥ずかしくなるから、紙ヒコーキにする前の説明をすることにした。
「昨日進路のことで先生に呼ばれちゃってさ。それで進路表を返されたんだよね」
「えっ、返されたの?」
「うん。それでなんか少しもやもやしちゃってさぁ……屋上に行って紙ヒコーキにして、飛ばそうか飛ばさないか悩んでたら風が吹いて……」
そのあとの言葉を悟った彼女は、「ああ、それであんなところに落ちちゃったんだね」と納得すると、クスッと笑った。