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 岩倉さんに次こそは、次こそはと思っていたけれど、そのたびにクラスメイトに声をかけられて運悪くタイミングを失った僕は、結局岩倉さんに声をかけられないままあっという間に放課後になった。

 そしてすでに教室からいなくなっていた岩倉さんを見つけようと学校中を探すけれど、彼女の姿は見当たらなかった。

 ーーキーンコーンカーンコーン。

 時刻は、午後十六時過ぎ。
 いつもより時間も押していたため。

「……仕方ない。今日はもう帰るか」

 岩倉さんに話しかけるのを諦めて帰路につこうと校門をくぐり抜けた。

 ーーカキーン。

「そっち行ったぞー!」
 グラウンドからは部活動をしている生徒の声が響いていた。熱気までも僕のところまで伝わってくる。

 それなのに僕の毎日はいつも通り。なにも変わり映えのない日常。
 灰色のみで僕の人生は描かれていて、他の色を知らない。
 赤や青、緑なんて原色はどれもない。

 それなのに見上げた空は、夕暮れのオレンジ色と夜を運んでくる深い青色がぶつかり合うように混在していた。

 僕の世界には、どの色もなかった。

「あーあ…」

 ほんっと僕の人生ってついてない。

 むしゃくしゃして、道に落ちていた小石を蹴り飛ばした。

「ーー浜野くん?」

 ふいに僕を呼ぶ声が後ろから聞こえて、え、と困惑した声を漏らしながら振り向くと。

「岩倉さん?!」

 なぜか、さっきまで探していたはずの彼女が僕の後ろにいるから驚くのは当然のこと。

「なっ、なんで? 帰ったんじゃなかったの?!」
「あ、実は先生に呼ばれちゃって職員室にいたの」

 ……まさかの職員室!

 さすがの僕もそこはスルーしていた。
進路表を返された気まずさもあって近寄りたくなかったからだ。

 でも、なるほど。

「だからどこ探してもいなかったのかぁ!」

 なーんだ。なんだ、それなら納得。

「え、探してたって私のこと……?」
「ーーえっ?」

 ちょ、待って。ストップ。なんで岩倉さんが探してたって知ってんの。

 ……まさか、まさか。

「僕、口に出して言ってた?」
「う、うん…」

 ーーしまったぁ…!

「あのっ、えっと、今のはべつに大した意味じゃないんだけど」

 いつも落ち着いていたはずの自分が今日に限って慌てる。心に余裕がなくなる。

 そんな僕を見て、

「浜野くんが慌てる姿、初めて見ちゃった」

 と、クスッと笑った岩倉さん。

「……え」
「あ、いや、ごめんなさい! バカにしてるとかじゃないんだけど……ただちょっとおかしいなぁって思って」