「誰よりもハルの教え方が一番分かりやすくてさぁ」
そう言うと、どこからともなくクラスメイトが寄って来て「俺も俺も」と手をあげる。
ここまでくると場を収めるのが大変だ。
それに今僕が一番大事なのは岩倉さんに声をかけることだったのに。ーーと、ちら、と彼女へ視線を向ける。
すると、ふいにばちっと視線がぶつかった。
「やっぱり無理?」
その瞬間、三谷くんに尋ねられてハッとした僕は慌てて目を逸らす。
「う、うん、いいよ」
三谷くんに返事をすると、「まじで?!」と嬉しそうに肩を組まれた。
それに困惑しながら頷くと、サンキュー、と告げられて腕を引かれそうになるから。
「あのさ、お昼食べ終わってからでもいいかな?!」
「おお! もちろんいいよ!」
じゃあまたあとで、と言って自分の席へ戻って行った三谷くん。
あー、断れなかった。悔しい! でもあのまま岩倉さんのところに行ってたら彼女に危害が及んでいたかもしれないし。だって岩倉さん、男子苦手そうだもん。
なんとか切り抜けられてホッとした僕は、とぼとぼ自分の席へ戻る。
「早かったな、ハル」
机に項垂れて座った僕は、わずかに顔を上げながら。
「……今の見てたくせに」
不貞腐れて見せると、頬杖をついた彼が。
「岩倉さんのとこまであと数歩だったのに、ほんとハルってタイミング悪いよね」
「僕がタイミング悪いわけじゃないし」
さっきのは、三谷くんが一方的に来ただけだ。
「まあでもさ、ハルらしいじゃん」
「なに? 僕らしいって…」
「だってそれだけ人が集まるってことは、人望が厚いってことじゃん」
「そうかもしれないけどさぁ……」
僕の人望が厚い。
それは、もちろん嬉しいことだけれど。
「僕らしいって何だろう?」
「さあな」
自分のことは自分が一番理解していると思っていたけれど、どうやらそうじゃないらしい。
「これから分かるんじゃないの」
「……ほんとに?」
「それはハル次第かなー」
なんて曖昧なことを告げられて、消化不良な感情だけが残った。
「僕らしいってなに……」
そしてもう一度僕は、一人ポツリと呟いたのだ。