「……まさか夏樹?」
「バーカ。そんなわけないだろ」
と、またまたデコピンを食らうはめになる。
「いったーい…!」
こめかみを抑えた僕。
けれど、言われっぱなしじゃ格好がつかないからと。
「僕、そんなにバカじゃないんだけど」
「だーかーらー、モノの例えだっつーの。いちいち言い返すなよなぁ。話が先に進まなくなるだろ」
案の定呆れられる。
僕は昔から気になることがあれば何でも尋ねていた。精神年齢がそこまで成長していないのだろうか。
「あのさ、でも僕、友達とそういうのでこじれるのだけは遠慮したいから」
「それはこっちのセリフだっつーの」
間髪入れずにツッコミが入った。
まあ、夏樹が岩倉さんのことをどうこう思っているわけじゃないってことは知っているけれど、念のためだ。念のため。
ーー大事なことなので二度言った。
「とにかく声かけてくれば」
「え? 今の僕の話聞いてた?」
「だってハルはもう話したくて仕方ないんだろ」
「……夏樹ってば僕のことほんとによく分かってるね。……もしかして運命共同体?」
なんてふざけてみると、「それはこっちから願い下げ」とうざがられた。
けれど口元がわずかだが緩んでいたのを、僕は見逃さなかった。
……ああ、やっぱり友達っていいなあ。
「じゃあ行ってくる!」
改めてそんなことを実感しながら立ち上がると、「はいはい」と面倒くさそうに返事をすると、しっしと僕へ向かって手を払った。
そこは、頑張ってこい、と親友を讃えるところだと思うけど……
まあ、いいや。目指すは岩倉さんの場所。いざ出陣! と心の中で自分を奮起する。
「あのっ、岩倉さ…」
だが、あと一歩のところで。
「ーーあっ、ハルー!」
僕が彼女の名前を呼ぶと同時に、僕の名前を呼ぶ声が聞こえて急ブレーキがかかった。
「…あ、三谷くん」
彼女へ向かっていた視線と足先が、声をかけてきた方へ切り替えるとクラスメイトがいた。
「次の授業さ、英語じゃん? だから分からないところ教えてほしいんだけど」
「え? あー…」
そういえば夏樹もそんなこと言ってたっけ。