「僕、勉強できるわけじゃないって!」

 ただ嫌でも勉強をして、この学校に受からなければならなかったから必死に徹夜で勉強をしただけだ。
 好き好んで誰が勉強なんてするかっ。

「はぁ? 現に頭いいじゃん。この前のテストだって全部九〇点台だったし」
「あー…それは多分、偶然勉強してたところが出たからかな」
「そんな偶然で全教科九〇点とか普通の人ならありえないっつーの」

 実際僕だって頭はそこまでいい方ではなかったけれど、偏差値の高いこの学校に入学することができたのは努力あってこそのことだし。

「そんなことないと思うけどなぁ」

 僕からすれば勉強なんてどうでもいい。
 しなくても問題はない。
 ただ親が敷いたレールの上を歩くために必要だっただけだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

「この間のテスト、夏樹だって点数よかったじゃん!」
「けどハルに負けたし」
「勝ち負けの問題じゃないよ!」
「それ、ハルが言うか?」

 今日二度目のデコピンを喰らった。
「痛っ」と声をあげたのは言うまでもない。

「頭良くて嫌なやつだったらハルとは絶対仲良くなれなかっただろうなー」

 え、それって……

「裏を返せば今すごく仲良いってことだよね!?」
「はぁ? そんなこと言ってないじゃん」
「でもそう聞こえたし!!」
「ハルの耳、悪いんじゃねーの」

 完全に、確実に脱線してしまった会話。

「僕、聴力だけは昔から誰よりもいいから!」

 売り言葉に買い言葉で言い返す。
まるで、子どものように。そんな僕をさらりとかわすように、はいはい、と言ってパンにかじりついた。

「それで、もうさっきの話はよかったわけ?」

 ふいにそんなことを告げられるから、え、と困惑した僕は声を漏らしたあと、しばらく考える。

 そうだ。僕、夏樹に何か相談してなかったっけ……相談って何の? 勉強? いいや、そんなはずない。だって大嫌いなんだし。

 相談、相談……あっ、思い出した!

「岩倉さんの話かあ!」

 ぽんっと手を叩くと、やっと思い出したか、と呆れたように苦笑いされる。