誰かにこの高揚感を共有してほしかった。
パンをかじりながら呆れたような表情を浮かべる夏樹をお構いなしに僕はしゃべりだす。
「実は今日の朝、岩倉さんとお近づきになれたんだよね!」
「……お近づき?」
「そう! ちゃんとしゃべったのが初めてだったんだけど、結構しゃべり返してくれてさ!」
「…へえ」
「しかも可愛くて! 声とか仕草とか僕の目線の下にいるとか笑った顔とか、もう全部が小動物に見えちゃってさぁ」
「……へえ」
機関銃のようにしゃべりだしたら止まらない僕をよそに、つまらなそうに適当に相槌を打つ夏樹。
「あのさぁ、ちゃんと聞いてる?」
僕の嬉しさが伝わっていないのか僕たちの温度差はかなりあるようだ。
「聞いてるけど、なんで男二人で話す内容が恋愛なんだよって思うと若干引くよな」
「うわ、ひどい! それが親友に言う言葉かよっ」
「だからこそだろ」
ため息混じりに言ったあと、ジュースをごくりと飲んだ夏樹。
彼はたまに説明を面倒くさがって言葉を省くときがある。つまり今の言葉の本来あるべき姿は、だからこそ、の前に入る単語はおそらく〝親友〟だろう。
「夏樹ってばツンデレだなー、もう」
だから僕はいつものように調子に乗った。
「話聞いてやんねーぞ」
すると、より一層眉間にしわを寄せる。
「ごめんなさいっ!」
けれど、僕は秒で深く頭を下げた。
どうやら僕が夏樹に勝つのは無理らしい。
いつも先に白旗をあげるのは僕だ。
「なんでこんなやつが俺より頭いいんだよ」
がくっと項垂れるように頭を押さえた夏樹。こんなやつ、とは間違いなく僕を指した言葉だ。
「あの、言っておくけど僕そんなに頭よくないけど…」
「学年で六位のやつが何言ってんの」
少し油断をしていると、伸びてきていた指先に気づくのが遅れてデコピンを食らった。
当然「いって〜…」と声をあげた僕は、こめかみを抑える。
「見た目緩くておちゃらけてて勉強なんて一切できなさそうに見えるのに」
「……すごい。悪口のオンパレード」
「なんでそんな勉強できるんだろうな」
……あれ、ちょっと待って。僕のなけなしのツッコミすら無視された。
てゆーか、さっきも言ったけど。