「あー、ほんと見つかってよかった」
少しだけ汚れていた紙ヒコーキに目を落としながらそんなことを言っていると、
「でも、あの、ほんとにごめんね」
「え? どうして岩倉さんが謝るの?」
「だ、だって、進路表なんて勝手に見ちゃったから…」
さっきまでの笑顔が解かれると、今度は眉尻が下がってしゅんとする。
「それは誰のか分からなかったからでしょ? なにも岩倉さんが責任感じる必要ないよ」
「で、でも…」
よほど進路表を見てしまったのが罪悪感を感じるのだろうか。
けれど、僕にとってむしろそれは。
「僕は感謝しかないよ」
「ーーえ?」
「進路表を紙ヒコーキにして屋上から飛ばそうとしてたのとか、その上失くしたなんて先生に知られたら、絶対にやばかったと思うし」
見つからなければ欲しくもない進路表を、貰いに行くはめになっていた可能性だってあるわけで。
「だから見つけてくれた岩倉さんにはほんとに感謝しかないよ。ありがとう」
僕がそう言うと、左右に首を振って、「う、うん…」と恥ずかしそうな小さな声で頷いた。
男子と滅多に話したところを見たことがない〝あの岩倉さん〟が、僕と話している。
この短時間で彼女のいろんな表情を見ることができた。
ーーもっと彼女のことを知りたい。
僕の鼓動が跳ねた。
「あのさ」
落ち着け、僕。ここで焦れば全てが水の泡になる。
「これからは遠慮なく話しかけてもいい?」
「ーーえ?」
「え?」
……今、僕はなんて言ったんだ?
数秒前の記憶を辿る。
〝これからは遠慮なく話しかけてもいい?〟
……うわっ、最悪だ! よりによってそんなこと言ってしまうなんて。
「えっと、今のはその、」
なんとかして誤魔化そうとするけれど、言葉に詰まった僕は身振り手振りだけが大きくなる。