「ぼんやりした光景が浮かんでるっていうか夢だったのか現実だったのかはっきりしない、そんな曖昧な感じっていうか」
「蜃気楼みたいな?」
「あー、うん。まあ、そんな感じかな」
夏の暑い頃に空気中に浮かぶ、ぼんやりとしたもの。ーーまさしくそんなふわふわした曖昧なもので。
「もしかすると僕たち、出会うべくして出会ったんじゃないかな……って思うんだよね」
なんて、くさいセリフ初めて言ってみたらすっごく恥ずかしくて、「運命?」と尋ねられた水帆の声は聞こえないフリをした。
「僕たちってさ境遇が似ていて、お互い傷ついていて、進路をどうしたいのか迷っている。お互いの顔を知らずに生活してきてた」
「うん」
「そんなとき偶然僕の絵を見つけてくれて」
水帆が僕の絵を見つけてくれなかったら、きっと今こうして出会うことはなくて。
「そしてこの学校で出会った。傷ついて悩んで迷って、この世界に絶望して……だけどどうにかして立ち直った。お互いの支えで」
僕の口からは次々と言葉が溢れて、
「きっと、出会っていなければ立ち直ることできなかったかもしれないよね」
「……うん」
「でも、出会えたからこそ。それが立ち直るきっかけになれた。変わることができた」
そういうふうに思わせてくれた。
おもむろに僕はベンチから立ち上がり、
「それってもう、運命以外のなにものでもなくて、そういうのを運命って言うんじゃないのかなぁ」
僕は、紡いだ。
今まで信じていなかった〝運命〟という言葉を。
でも、今の僕は。
「水帆となら信じてみてもいいと思ったんだ、運命ってやつを」
ふいに、水帆が僕の隣へやって来る。
「ーー私も、そう思う」
僕は静かに鼓動を鳴らした。
ふわりと吹いた風が、僕たちの間を通り過ぎる。
冷たさだけが髪や制服に残る。
「私ね、ずっとハルの絵を光に頑張ってこれた。ハルに会いたくて、ここまで追いかけてきた」
僕の絵を写真で持ち歩いてくれていた。