「僕は強くなることができたんだ」

 何一つ、怖くはなかった。

 もう一度、人生を見つめ直すことができた。

「生まれ変わることができたんだ、新しい浜野晴海に」
「新しい……」
「うん。New ハルの誕生!」

 そう言っておどけると、なにそれ、って言って笑った。

 水帆が笑うと、僕まで嬉しくなる。
 水帆の言動と僕の感情がリンクしている。

「これからは僕、何も隠さずに素直になるって決めた!」
「え。それ、今までと変わらなくない? だってハル、普段はすごく表情に出て分かりやすかったよ」
「えー……あっ、じゃあさらにアップした僕ってことで!」

 こんな中身のない内容をしゃべっているのは、この世界を探してもおそらく僕と水帆の二人だけだ。

「もう、ハルなんだかバカになったみたい」

 そんな僕を見て水帆は、もう泣くことはなかった。

 よかった、水帆が笑ってくれて。
彼女が泣いている姿はもう見たくない。

 それに水帆には笑顔が一番似合うから。

「ねえ、水帆」
「なあに?」
「僕、今から変なこと言ってもいい?」
「え、変なこと? うーん……内容にもよるかなぁ……」

 きみは、僕の言葉を聞いてどう思うだろうか。

「僕さ、ずっと不思議だったんだよね」
「不思議?」
「水帆と音楽室で出会ったあの日、すごく心が弾んだんだ。ピアノの音色を聴いたからかとも思ったんだけど……」

 どうもそうじゃないような、もっとべつの何かがあるような。

 その〝何か〟を僕は、ずっと探してた。

 水帆と話しているうちにその答えが見つかるはずなんじゃないかと思って。

 小さな欠片は日々積もっていき、それが結晶となった今、その答えを見て見ぬフリはできそうになかった。

「なんだかさ、水帆と初めて会った気がしなくて」
「そりゃあ私たち同じクラスなんだし…」
「まあそうなんだけど! そういうことじゃなくてなんて言うのかな…」

 うまい言葉が見当たらなくて、頭の中の辞書を引っ掻き回すけれど、全然ダメで。