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その日の放課後。僕は、水帆を誘って彼女がいつもよく行くあの場所へ向かった。
十六時半過ぎにまだ自分が外にいることがまだちょっと慣れなくて、ふわふわして少し落ち着かなかった。
水平線の向こうに今にも沈みそうな夕陽のオレンジ色と夜を運んでくる深い青色が、お互いを支え合うようにして混在しているようだった。
「あー、すっきりしたぁ!」
うんと両手を空に掲げてお腹の中から声を張り上げる。
「これで僕、何も隠してることなくなって堂々と美術大学に進める!」
「うん、ほんとだね」
「一時はどうなるかと思ったけど、水帆のおかげでちゃんと親にも分かってもらえたし一安心かな」
「だからこれはハル自身の頑張りのおかげだって」
「ううん、ほんとに水帆のおかげ!」
今日だけでこんなやりとりをしたのはもう何度目だろう。
何度繰り返してもまだ実感がわかない。ふわふわして、まだ夢でも見ているかのような。
それはまるで蜃気楼のように。
今の熱が冷めてしまったら、現実に戻る……なんてことだけは勘弁してほしいものだ。
「わっ……!」
急に吹いた強い風に驚いて声をあげる水帆。
寒暖差が激しいこの時期は、朝と夕方は冷えだす。そのせいで、外はひんやりとして少し肌寒い。
こんな中、これからもずーっと一人で帰ると思っていた。
「僕さ、水帆がいなかったらきっとやりたいこと……絵を描くことを諦めてたと思う」
でも、水帆と出会ってから僕の世界に色がつき始めた。
「ハル……」
「僕の存在理由は親の言う通りに生きていくことだと思ってた」
そう思って疑わなかった。
「でも、水帆が背中を押してくれたおかげで分かったんだよね」
自分の過去を打ち明けてまで、僕のことを支えてくれた。
だったら自分もちゃんと言わなきゃいけない。
「僕、親と向き合うことが怖かったんだと思うんだ」
今まで隠していた思いを全部。水帆に聞いてほしい。
「いつも家に帰っても誰もいなくて、孤独で寂しくて虚無感に襲われて。でも、頭では分かってるんだ。親が仕事で忙しいから家にいないんだって」
理解はしていても、それを納得できるほど僕はまだ大人ではなかったみたいで。