「それじゃあこれ」

と言って手渡された進路表。

 そこには、第一志望のところに〝T大学〟と小さく書かれていた。
 今まではそれを変えようと努力もしなかったし、自分で動くこともしなかった。

「先生、これ借ります」

 前原先生の机のペン差しに入っていた油性ペンで、今度は二度と間違わないように。

 〝美術大学〟

 そう上書きをしたのだ。

 そうしたら先生は、「おまえ、これ油性だぞ」そう言って苦笑いされたけれど、僕はむしろ清々しかった。

 どうすることもできなかった僕の人生を、浜野晴海としての人生を、変えることができたのだ。新しく上書きすることができたのだ。

「先生、僕もう間違えません。やりたいことはやりたいってちゃんと言葉で伝わるようにします」

 ペンを返しながら言うと、

「言葉で伝えるのはいいことだが、これは油性だぞ。浜野、おまえは極端すぎるな」

 と、苦笑いをされる。

 進路表の第一志望の欄から大きくはみ出して、油性マジックで書いたのだから消えることはないだろう。

「それは大目に見てください」

 僕がそう言って笑うと、

「仕方ないなぁ……ってそんなわけあるか」

 ノリツッコミをされたのだ。

 けれど、そのあとは二人して笑った。

 やりたいことをやりたいと堂々と言えるようになってから、僕はとても気が楽になった。

 今までずっと重たい足枷を嵌めていた。
 けれど、それが取れた今、僕はどこへでも飛んで行けそうな気がしたんだーー。