「進路表かなり前に提出したんですけど、それに提出期限過ぎてしまってるし無理かとも思ったんですけど……進路を変更することってできませんか?!」
一瞬だけ目を驚かせた先生は、まるでついさっき僕が水帆に見せた鳩に豆鉄砲を食らったときのような表情をして見せた。
「変更? というのは」
「僕、美術大学に進みたいんです!」
ーー言った。言えたぞ、僕!
「美術」
「はい。僕、絵を描くのが好きなんです。だから…!」
勇気を振り絞った。
するとーー
「おお、そうかぁ。浜野は絵を描くのが好きだったか」
驚くこともせず、むしろ安堵したような表情で告げられて思わず、え、と声を漏らした。
「あー、いやな。浜野、二年連続で文化祭の個人展示を絵にしてただろ? だからもしかすると…そう思っていたがまだ確信が待てなくてなぁ」
「……そう、だったんですか?」
「ああ。でも、無理に聞き出すのはよくないと思ってな。だから猶予をやったんだが、一週間ほどで浜野は進路表提出したし、よっぽど変えられない何かがあるんだろうなぁと心配はしてたんだが」
でも、と続けると、
「ほんとに進みたい進路を教えてくれてよかった」
と言って、笑った。
三週間ほど前、ここで進路表を返された。
あの日がまるで昨日のことのように思い出される。
僕は、自分の進路を諦めていた。
どうせ親に何を言ったところで変えられるはずないと諦めていたし、医者になれと言われていたからにはそれを変更するなんて不可能だと思っていた。
僕が何かを望んでもそれは手に入らない。
小さな頃から知っていて、だからこそ僕は自分の思いを口にすることがなくなった。
〝浜野晴海〟である以上、親の敷いたレールの上を一ミリのズレもないように進んでいくしかないのだと、そう思っていた。
けれど、それを変えてくれたのは間違いなく水帆だった。
水帆が僕を支えてくれた。引っ張ってくれた。一緒の時間を共有してくれた。
そのおかげで今の僕があるんだ。