◇

「水帆!」

 ガラッと思い切り開けたドアの向こうには、そわそわして落ち着かない水帆の姿があった。

「あっ、ハルっ、おはよう」
「おはよう、水帆」

 そんなやりとりはこれで何度目だろう。

 最初は慣れなかったものの何度かやりとりをするうちに僕も慣れて、今では日常の一コマだ。

「今日、天気すごくいいね」

 ぎこちなく話題を提供する水帆。

 学校へ来る途中、空を見上げてみたら遠く遠く向こうから陽が差し込んだ。澄み切った青空と紫色が絶妙なコントラストを描きだしていた。

 僕は、今日早く水帆に会いたくてたまらなかった。

「空のグラデーション見た? 青と紫の境い目がすごくて、それで……」

 視線を右に左に動かしながら、いつもとは態度は違ってみえた。
 なぜ、今日は違ってみえるのかはおそらくあのことが原因で。

「あのね、水帆」

 僕は早く言いたくて仕方なかった。

 家を出たときから。学校についたときから。ううん、それよりもっと前。今日、目が覚めたときから。
 誰よりも先に言いたくて仕方なかった。

「僕の話聞いてほしいんだ」

 そう前置きをすると、ぴしゃりと背筋が伸びたように見えた。
 そして控えめに首を縦にゆっくりとうなずいた。

「昨日あれからまた話したんだけど」

 一秒でも早く言いたい。でも、言いたい感情だけが先走って話の順序がバラバラになってもいけないから。
 すーはーと息を整えてから、

「一応美術大学に行くことを認めてもらえたんだ」

 僕がそう言うと、えっ、驚いた声を漏らして目をぱちくりさせるが、それからの反応が途絶える。

 しばらくして、

「ほんとに……?」
「うん、ほんとだよ」

「そっっかぁ……!」

 驚いたのと安堵したのと二つの感情が混在していた。両手を口元にあてると、目にはたくさんの涙を浮かべた水帆。

「ほんとによかった……よかった……」

 ぽつりぽつり紡ぐと、僕の目の前で泣いた。