「だからこそ、やりたいことを話してくれた晴海のためにも今回は親であるわたしたちがその気持ちを踏み躙ったらだめだ」
「でも、あなた……」
「大丈夫。心配するんじゃない」
母さんの肩に手を添えながらなだめたあと、
「晴海」
僕の名を呼んだ。いつもより少し優しい声で。
一気に緊張が身体を走ってしゃきんと背筋が伸びる。
「やりたいことを見つけたなら最後までやりぬきなさい」
「えっ……という、ことは……」
「晴海のしたいようにするといい」
今までは無理だと思った。言ったってダメだと言われるだけだと思ってた。初めから諦めてた。
反発しないことが一番利口だと思っていた。
でも、実際はそうじゃなかった。
僕が諦めずに最後まで言葉を紡いでいれば、もっと早くに通じていたかもしれないのに。
「ほんとにいいの……?」
僕は、信じられなくて疑った。
けれど、
「男に二言はない」
そう告げると、わずかに口元を緩めた。
そのとき初めて父親の笑った顔を見た気がする。
「ありがとう、ございます……っ」
僕は嬉しくって、気がつけば涙が溢れていた。
次から次へとこぼれ落ちる涙は、テーブルの上に小さな水たまりを作る。
諦めなくてよかった。最後にもう一度向き合ってよかった。
そのおかげでこうして今があるんだ。
「こらこら、男が泣くなんてみっともないぞ」
父さんの声はいつになく優しくて、僕の凍った心を少しずつ少しずつ溶かしていくようだったーー。