「母さん、待ちなさい」
「だけどあなた！！」
「いいから待ちなさい」

　父さんの声が静かにゆっくりと落ちてくる。
　ここまで父さんが感情をあらわにしたのは初めてかもしれなかった。

「でもあなた、晴海ったら学校をズル休みしたのよ？　こんな大事な時期なのに一日休んだら授業の遅れを取り戻すのは大変なのよ！？」

　それでも納得しなかった母さんは、父さんへと言葉をまくし立てる。

「それを分かった上で晴海は行動に移したんだろう」

　だが、父さんの口から漏れた言葉は予想外のものだった。
　それを聞いた母さんは、え、と声を漏らす。当然の反応だ。

「母さんも聞いただろう？　晴海の言葉を」
「ええ、でもそれは…」
「晴海はそれを分かった上で行動したんだ。いずれバレたら怒られると分かっていながら、自分の未来のために行動した。まだ高校生なのに大したことじゃないか」

　嘘……でしょ？　父さんがなんで……

「で、でも、あなたっ…！」
「晴海が自分のしたいことを言えなかったのは、そうさせてしまったのはほかでもないわたしたちだ。そこまで息子を追い込んだのは親であるわたしたちの失態だ」

　まさか父さんが僕の味方をしてくれるとは思っていなかった。

「でも…でもっ、あなた……」
「母さんの言いたいことも分かる。晴海の将来のためを思って、晴海が困らないために、医者になりなさいと言った。それに間違いはない」
「それなら……」
「だが、無理やり勉強をやらせてまでやりたくもない医者になれと言うのは間違いだった」

　だって、と続けると、

「晴海は立派に自分でやりたいことを見つけたじゃないか」

　目の前で広がる両親の会話を聞いて、僕は我慢していたものが込み上げそうになる。