「いつからだ。そんなふうに思っていたんだ」
「……高校受験する頃あたりから」
「なぜもっと早くに言わなかったんだ」
なぜ、って。そんなの。
「母さんや父さんたちが言わせないようにしたんじゃないか」
駄々をこねた子どものように言い返すと、
「晴海! あなたねえ……!」
ソファに座っていた母さんが立ち上がって鬼の形相をするが、やめなさい、と父さんが止めに入る。
すると、母さんは不満を残したままソファに座った。
あのまま父さんが止めに入っていなければ、僕は母さんに叩かれていたかもしれない。
「それで晴海はどうしたいんだ」
「どうってそれは……」
隠さなくてもさっきと同じことを言えばいいんだ。
大丈夫。なにも怖いことはない。すーはーと深呼吸をして、口を開く。
「……美術、大学に行きたい」
言ったあと冷や汗が流れた気がした。
でも、まだだ。まだ言葉が足りない。
「今まではずっと言えなくて黙ってた。母さんも父さんも医者なのに僕が絵を描きたいなんて簡単に言えなかった」
「なぜだ」
「医者になれって言われてたから、どうせ言ってもダメだと思ってた……諦めてた」
置き時計がチッチッチッと時を刻む。
「けど、やっぱり諦めたくないと思った」
怖かった。でも、顔をあげて父さんの顔を見た。そのときの表情はニコリともしない。無表情のままだ。
「なぜ心の変化が起こったんだ?」
けれど、怒っているわけではなさそうで。
「この前、美術大学の見学に行ったんだ」
「休みの日に行ったのか?」
「あ、えっと……」
どうしよう。言ったら確実に怒られるよな。でも、ここで嘘ついてもきっと伝わらないし。
「言ってなかったけど学校を…その、休んだときに……」
少しだけ驚いた表情を浮かべた父さん。
「なんですって?! 学校をズル休みしたの!?」
それよりも母さんの反応の方が大きくて、
「あなた高校二年にもなってなにやってるのよ!!」
激怒した母さんの声がリビング中に反響した。