「だからこそ、じゃないかな」
「え?」
「ハルのお父さんだからこそ、父親だからこそ厳しくあらないといけない。手本でいなければならない。その思いがあるからこそ、言葉でうまく言えないんじゃないのかな」

 そう言って、空を仰いだ。

 そのときの横顔は泣いていた子とはまるで別人の子に見えた。

「なんて言ってみたけど実際のところ分からないよね」
「え?」
「だって人の心なんて何重にも扉が閉まってるんだよ? 素直じゃなくて複雑な感情が絡み合っていて、神様でもない限り心を読み取るなんてこと不可能だもん」

 そう言ったあと、だから、と続けると、

「人間は心を通わせるために言葉があるんだよ。そのための言葉だと思うの。言葉を交わしてこそ通じ合うんだと思うんだ」

 記憶を掘り返してみても僕は、父さんと言葉を交わしたことは少なかった。
 だからこそ、今までお互いを理解し合うことができなかったのだろうか。

「ちゃんと伝わるのかなぁ……」
「ハルの伝えたい思いが強かったらきっと届くと思うよ」
「水帆……」

 ああ、まただ。
 また、きみに支えられる。

 僕は何も返すことができていない。

 でも、だからこそ。

 僕はもう、現実から逃げない。
僕の、浜野晴海としての人生をちゃんと送りたいから。

 屋上で指切りを交わしたきみに、恥じないありのままの僕でいたいから。

「もう一度、向き合ってみる」
「ハル……」

 水帆、と名前を呼んでーー。

「僕のこと迎えに来てくれてありがとう。支えてくれてありがとう。手を引っ張ってくれてありがとう」

 たくさんのありがとうを、きみに。
 たくさんの言葉を、きみに。

 真っ暗闇の中、僕を照らしてくれたのはきみで。
 僕の道を照らしてくれたのも、きみ。

 僕にとってきみは、間違いなく道標だったーー。