『ニャ―――!! 華乃子を離せ!』

けたたましい鳴き声と一緒に空から降って来た太助が寛人の顔面をその爪でバリバリと引っ掻いた。

「く……っ!! 何をする化け猫ふぜいの身で!!」

咄嗟に自分の顔を庇った寛人が水の鎖の端を離した。その隙に太助を寛人の上の方から放り投げた白飛が華乃子を攫って遠くまで飛ぶ。宙を走って追いついた太助もまた、白飛に乗った。

「太助! 白飛!!」
『華乃子! 怪我無いか!!』
「怪我って言うか……、鎖が千切れなくて……!」

出来るだけ遠くまで逃げたいけど、水の鎖の端っこは寛人の許に続いていて、ゆらりと立ち上がった寛人がその端をもう一度握りしめた。

「諦めるんだ! 華乃子ちゃん!!」

そう言って寛人がぐっと水の鎖を引いた瞬間。
ぎゅっと、自分の首を庇った。
首が絞まらなければ、何か策を考え出せると思って。
そこに。

「華乃子さん!!」

火口の方から雪月の声が聞こえて、それと同時にゴオッと大吹雪が吹き荒れた。
水の鎖は一瞬氷になって、華乃子が首を庇っていた力でパキンとあっけなく砕けた。ふわっと息が軽くなり、それと同時に思い出したことがあった。光雪が千雪と話していた時、あの時光雪は華乃子のことを『水の御霊が操れる』と言っていなかったか。『龍久』とは誰のことは分からずじまいだけど、さっきは水の鎖に呼び掛けて駄目だったから、これを試してみたら良いんじゃないだろうか。

「おのれ! 雪女ごときが龍族の俺に立ち向かうか!!」

寛人の怒りの矛先が雪月に向いた一瞬を突いて、華乃子は寛人に向かって声を張り上げた。

「我は水の御霊を宿す者なり! 水の御霊よ、怒りを忘れ、我がしもべとなり、元の場所に帰れ!!」

すぅと空中に宣誓するかのように指先を高く上げ、振り下ろすと、華乃子の首に絡まっていた雪の残骸も、寛人に繋がっている水に戻った鎖も、ぼとぼととその形を雫に戻して下に落ちて行った。その水たちの様子を驚きの目で見ていた寛人に華乃子はきっぱりと言った。

「ごめんなさい、寛人さん。私、貴方とは結婚しません」

そう言って、火口へと急降下する。寛人は後を追ってこなかった。華乃子に置き去りにされた寛人がぽつりと呟く。

「水の御霊を操られてしまっては、傍系の僕は敵わないよ、華乃子ちゃん……。力を超えて惹かれる心を持つ君が、今、少しだけ眩しい……」

その言葉は華乃子には届かなかった。