今ちらりと見えたのは雪月かもしれない。直ぐにでもあの場に行きたかったのに、首を絞められ、体が首から後ろへ、ぐん! と引っ張られた。
華乃子はそのまま白飛の上から放り出され、空中に宙づりになった。華乃子の首には首輪のように水の鎖が巻き付いており、その先は今しがた白飛たちと一緒に潜り抜けてきた幽世への入り口で、其処に居たのは寛人だった。
「逃がさないよ、華乃子ちゃん。……僕はずっと待っていたんだ……。龍族の頂点に上り詰めるときを……」
にたあと笑う寛人の目は妖しい光を放っていた。其処に居るのは子供の華乃子にやさしかった寛人ではない。力を求めて狂ってしまった、哀れなあやかしだった。
「う、……ぅう……」
首を戒めている水の鎖に手を掛けるが、寛人の妖力で作られているらしく、手の力では千切れない。
(よ、妖力で作られてるなら……、妖力で断ち切れたりしないのかしら……。寛人さんは、自分よりも私の方が力が強いと言ってたわ……)
でも、どうやって? 雪山の時もそうだったが、華乃子は今まで人間として暮らしてきたために、妖力の操り方が分からない。あの時は頭の中にこだました言葉を唱えたら雪が止んだけど、今はなんて唱えたら良いのか分からない……。
「みず……の、鎖、よ……、我の、まえ……に、解離……せ、よ……」
何とか以前頭に響いた言葉のようなものを唱えてみたけれど、水の鎖はびくともしない。ぶつぶつと言っている間に寛人が華乃子を引き上げる。
「無駄なあがきは止めるんだ、華乃子ちゃん……。君に秘められた力は大きい。だが、それは使い方を知っていればこそのことだ」
「う……ぐ……」
首が絞められて苦しい……。今、まさに雪月が業火に焼かれてその身が危ないというのに、自分はそれを止めることも助けることも出来ないのか……。こんな、半端な力を持ったがために寛人に引き止められて……。
「行くよ、華乃子ちゃん。東京に帰ったら祝言だ」
寛人の言葉に強い感情が沸き上がる。
嫌だ。
添い遂げるなら、雪月が良い。
いや、雪月じゃなければ、駄目なのだ。
「さあ、我が花嫁殿」
そう言って、首を絞めたままの華乃子の手を取ろうとする。その時。
華乃子はそのまま白飛の上から放り出され、空中に宙づりになった。華乃子の首には首輪のように水の鎖が巻き付いており、その先は今しがた白飛たちと一緒に潜り抜けてきた幽世への入り口で、其処に居たのは寛人だった。
「逃がさないよ、華乃子ちゃん。……僕はずっと待っていたんだ……。龍族の頂点に上り詰めるときを……」
にたあと笑う寛人の目は妖しい光を放っていた。其処に居るのは子供の華乃子にやさしかった寛人ではない。力を求めて狂ってしまった、哀れなあやかしだった。
「う、……ぅう……」
首を戒めている水の鎖に手を掛けるが、寛人の妖力で作られているらしく、手の力では千切れない。
(よ、妖力で作られてるなら……、妖力で断ち切れたりしないのかしら……。寛人さんは、自分よりも私の方が力が強いと言ってたわ……)
でも、どうやって? 雪山の時もそうだったが、華乃子は今まで人間として暮らしてきたために、妖力の操り方が分からない。あの時は頭の中にこだました言葉を唱えたら雪が止んだけど、今はなんて唱えたら良いのか分からない……。
「みず……の、鎖、よ……、我の、まえ……に、解離……せ、よ……」
何とか以前頭に響いた言葉のようなものを唱えてみたけれど、水の鎖はびくともしない。ぶつぶつと言っている間に寛人が華乃子を引き上げる。
「無駄なあがきは止めるんだ、華乃子ちゃん……。君に秘められた力は大きい。だが、それは使い方を知っていればこそのことだ」
「う……ぐ……」
首が絞められて苦しい……。今、まさに雪月が業火に焼かれてその身が危ないというのに、自分はそれを止めることも助けることも出来ないのか……。こんな、半端な力を持ったがために寛人に引き止められて……。
「行くよ、華乃子ちゃん。東京に帰ったら祝言だ」
寛人の言葉に強い感情が沸き上がる。
嫌だ。
添い遂げるなら、雪月が良い。
いや、雪月じゃなければ、駄目なのだ。
「さあ、我が花嫁殿」
そう言って、首を絞めたままの華乃子の手を取ろうとする。その時。