*
「白飛! もっと早く飛べない!?」
『無理だ、華乃子! 俺にはこれが限界だ!』
華乃子は太助と共に白飛に乗って高尾山の社に向かっていた。雪樹から雪月のことを聞いたのだ。
――『雪月さんは、雪女の魂を抜くために『火入れ』という行事をしに、桜島に向かった』
桜島を司る鬼の火は、雪月が司る雪を溶かす存在だ。『火入れ』という行為をして雪女としての魂を抜き、人の『ような』ものになるのだと、雪樹に付き添ってきた光雪が説明してくれた。勿論、雪女としての死を招くだけでなく、もしかしたら人としても死ぬかもしれない。そんな危険な行為を、雪月は華乃子の為に行うのだという。
どうして? どうして、私の為に? あの女性と結婚を決めたんじゃなかったの?
ぐるぐると疑問が頭に浮かび、桜島の炎に焼かれる雪月の姿を想像したら、居ても経っても居られなくなった。その場で白飛たちを呼び、気付けば高尾山に向かっていた。雪月が言っていたのだ。霊峰は幽世に繋がると。そして幽世からまた霊峰へも行けることも、軽井沢で会った雪樹が示していた。
だから幽世を辿って桜島へ急ぐ。雪月の身に何か起こってしまう前に。
『視えた! 社の向こうが幽世だ!』
白飛に乗ったままの華乃子と太助はそのまま社の向こうに存在する幽世に飛び込んだ。雪女の郷を訪れた時よりもうんと通りにくく、体が捻じ曲がるかと思った。それでも白飛にしがみついて何とか幽世へと渡る。
『幽世なら、俺たちの世界だ! 桜島までの最短を行くぜ!』
『白飛、左の方に火の気配がするぞ!』
『承知だ、太助!』
太助が猫のひげで火の気配を辿り、白飛が華乃子と太助を乗せて幽世の桜島に続く道を飛ぶ。
(どうか……、どうか間に合って……。無茶しないで、先生……!!)
白飛が幽世の世界を高速で駆け抜けていく。もとより距離感覚がつかめない世界だったけど、今は更に分からない。ただ、華乃子の中で焦りだけが増して行っていた。
『富士山は過ぎた! あそこが阿蘇山で、その向こうが桜島!!』
一体、幽世の中の日本の地理はどうなってしまっているのだろう。とはいえ、現世と同じ地理感覚でなくて良かったと、この時ばかりは思う。
愛宕神社から鬼の居る火口に繋がる幽世からの出口へ向かって三人一緒に現世に飛び込むと、目の前に広がったのは赤々と煮えたぎるマグマとその上に燃え盛る炎だった。幽世の世界から飛び出て一瞬にして華乃子たちは鬼の炎の上にひらりと飛び込んでしまったのだ。
『うわー! あちちち!!』
「白飛! 上へ逃げて! 上よ!!」
白飛は華乃子の指示を受けて太助と華乃子を乗せまま、ぐいんと上昇した。
火口の炎から巻き上がる上昇気流で白飛の体がバタバタとはためく。下から吹きあがってくる熱風を受けながら、華乃子は火口の中を覗き込んだ。
(熱い……。半妖の私でさえこんなに熱いんだもの、先生はもっと熱い筈……)
かなり高い所から、それでも周囲の赤と違う色の場所が見えた。ほんの点にしか見えないが、赤いことは赤いのだが少しくすんだ赤色の部分があった。そしてその中心に、ちらりと白い着物の人の姿が見えた。
「先生!? せんせ……うぐっ!」
「白飛! もっと早く飛べない!?」
『無理だ、華乃子! 俺にはこれが限界だ!』
華乃子は太助と共に白飛に乗って高尾山の社に向かっていた。雪樹から雪月のことを聞いたのだ。
――『雪月さんは、雪女の魂を抜くために『火入れ』という行事をしに、桜島に向かった』
桜島を司る鬼の火は、雪月が司る雪を溶かす存在だ。『火入れ』という行為をして雪女としての魂を抜き、人の『ような』ものになるのだと、雪樹に付き添ってきた光雪が説明してくれた。勿論、雪女としての死を招くだけでなく、もしかしたら人としても死ぬかもしれない。そんな危険な行為を、雪月は華乃子の為に行うのだという。
どうして? どうして、私の為に? あの女性と結婚を決めたんじゃなかったの?
ぐるぐると疑問が頭に浮かび、桜島の炎に焼かれる雪月の姿を想像したら、居ても経っても居られなくなった。その場で白飛たちを呼び、気付けば高尾山に向かっていた。雪月が言っていたのだ。霊峰は幽世に繋がると。そして幽世からまた霊峰へも行けることも、軽井沢で会った雪樹が示していた。
だから幽世を辿って桜島へ急ぐ。雪月の身に何か起こってしまう前に。
『視えた! 社の向こうが幽世だ!』
白飛に乗ったままの華乃子と太助はそのまま社の向こうに存在する幽世に飛び込んだ。雪女の郷を訪れた時よりもうんと通りにくく、体が捻じ曲がるかと思った。それでも白飛にしがみついて何とか幽世へと渡る。
『幽世なら、俺たちの世界だ! 桜島までの最短を行くぜ!』
『白飛、左の方に火の気配がするぞ!』
『承知だ、太助!』
太助が猫のひげで火の気配を辿り、白飛が華乃子と太助を乗せて幽世の桜島に続く道を飛ぶ。
(どうか……、どうか間に合って……。無茶しないで、先生……!!)
白飛が幽世の世界を高速で駆け抜けていく。もとより距離感覚がつかめない世界だったけど、今は更に分からない。ただ、華乃子の中で焦りだけが増して行っていた。
『富士山は過ぎた! あそこが阿蘇山で、その向こうが桜島!!』
一体、幽世の中の日本の地理はどうなってしまっているのだろう。とはいえ、現世と同じ地理感覚でなくて良かったと、この時ばかりは思う。
愛宕神社から鬼の居る火口に繋がる幽世からの出口へ向かって三人一緒に現世に飛び込むと、目の前に広がったのは赤々と煮えたぎるマグマとその上に燃え盛る炎だった。幽世の世界から飛び出て一瞬にして華乃子たちは鬼の炎の上にひらりと飛び込んでしまったのだ。
『うわー! あちちち!!』
「白飛! 上へ逃げて! 上よ!!」
白飛は華乃子の指示を受けて太助と華乃子を乗せまま、ぐいんと上昇した。
火口の炎から巻き上がる上昇気流で白飛の体がバタバタとはためく。下から吹きあがってくる熱風を受けながら、華乃子は火口の中を覗き込んだ。
(熱い……。半妖の私でさえこんなに熱いんだもの、先生はもっと熱い筈……)
かなり高い所から、それでも周囲の赤と違う色の場所が見えた。ほんの点にしか見えないが、赤いことは赤いのだが少しくすんだ赤色の部分があった。そしてその中心に、ちらりと白い着物の人の姿が見えた。
「先生!? せんせ……うぐっ!」