雪樹と言えば、まだ年始の時に五歳くらいの背丈だった。それが見違えるほど背が伸びて、表情も利発そうに黒い瞳を輝かせていた。

「あやかしは力がみなぎると成長するんだよ。僕は郷で沙雪さんに連れ帰られて華乃子さんが危険な目に遭ったと知ってから、いつかきっと華乃子さんを守れるようになりたいと思って時を過ごしてきた。おかげで雪も操れるようになったよ」

そう言って雪樹が手のひらを上に向けると、其処に雪が舞い散った。

「僕は華乃子さんを想う力でこの姿になった。そのことをまず、華乃子さんに報告したかった。……そして、彼は力が足りなさすぎる。血が薄いんだと思う。僕ならもっと強くなって、いずれ華乃子さんを幸せに出来る力を身に付けることが出来る。貴女のおじいさんとおばあさんもそうやって結ばれたんだ。僕は華乃子さんが好きだし、これからもっと強くなる。だから将来僕を選んで欲しい」

真剣に華乃子を見る雪樹の目には、『力で伴侶を選ぶ』という、寛人と全く違わない気持ちがみなぎっている。
光雪と寛人の争いだったり、壁に打ち付けられた寛人に対する周りの人たちの反応だったり、また、雪樹の言葉を聞いても、何処にも心がこもっていない。それに違和感を覚えているのは、この場で華乃子ただ一人だった。

力で……。何もかもが力で説き伏せられていく……。
そんな悲しいことがあるだろうか。
ほろりと目じりから零れたそれが、頬を冷たく伝っていく。華乃子を見ていた雪樹が訝しげな顔をする。

「どうして泣くの? 僕が何かおかしなことを言った?」

雪樹が悪いわけではない。彼はあやかしの本能に従って華乃子を求めているのだ。あやかしとして、それは正しい。だけど……。

「私は心から私を愛して欲しいの。だって私は人間だもの……」

こうやって憐みの感情さえ受けられない寛人や、彼を力でねじ伏せた光雪、血の濃さから自分を選んでもらえると信じて疑っていなかった雪樹にも分かってもらえないそれは、人間として生きてきた華乃子の心そのものだった。

「心って何? 僕だって、華乃子さんを想う気持ちがあったからこそ、ここまで力を付けることができたんだ。それは心とは呼ばないの?」

例え雪樹がいう想う心があったとしても、『妖力(ちから)で選ばれる』という前提自体が華乃子には理解できない。

「違うの……。心は人そのもの……、全てなの……。力で全てが決まる貴方たちあやかしとは違う生き物なの……」

あんなに華乃子に辛く当たっていた一夜にだって、華乃子を想う心があった。力こそ全てとするあやかしの行動は、華乃子にはやはり理解できないし、話し合っても分からない。

「……じゃあ、雪月さんはどうなの?」
「え……」