「つまり君が彼を選んでも僕を選んでも、同じだと言うことなのだよ。そして龍族傍系の僕から見ても、彼は僕より弱い」
あやかしは力に惹かれるもの。婚姻相手も力で決める世界。
雪月は弱いから俺にしろ、と寛人が言っている。
強者だけが勝つ世界。
それをやはり華乃子は悲しいと思う。
「それでしたら」
華乃子はもう一度、強く寛人を見た。
「私は誰も選びません。一生一人で、生きていきます」
幼い頃から疎まれてきた。このあとの人生が愛する人に恵まれなくても、悲しくない。
「鷹村を見返せなくても良いと?」
「元より、捨てた家です」
「ふむ……」
寛人は一瞬だけ、思案気な顔をした。しかし直ぐに余裕の表情が戻る。
「わかった。今日はここまでにしよう。だが、華乃子ちゃん、僕は諦めないよ。僕にとって君は、最後に残された希望の光なんだ」
椅子から立ち上がった寛人の目は、欲望露わにぎらぎらとしていた。
寛人の見送りを受けて九頭宮の家を出る。水がまとわりつくような空気の中、華乃子は別宅へ戻っていった。華乃子の首をぐるりと回って、細い水が糸を引くようにたなびいているのを、誰も見ることは出来なかった……。