「死んでたかもしれなかったんですよ!? 私が死んでも良かったんですか!?」
「そんなわけありません……! 必ず帰ってきてくださると信じていました……!」
信じる信じる。さっきからそればっかりだ。雪月は華乃子の危機に、何も行動を起こしてはくれなかった。事実はそれだけだ。
「……先生のお考えは分かりました。……私は、先生にとって、助けるべき相手ではないのですね……」
「違います……っ。何時でも華乃子さんをお助けしたいと思ってます……っ。だからあの小説も書けたんですし……っ」
「行動が伴わない想いを、私は信じられません。あの小説だって、先生の空想でしかないわ……っ!」
言ってしまってからはっとした。あの小説は華乃子を小説の中でだけでも幸せにしたいという、雪月の切なる願いがこもっていたものだったのに……。
雪月は目を見開いて、それから力なく笑った。
「そう……、ですね……。……確かに、空想でしかありません……。あの小説を書いたくらいで、華乃子さんの負った傷が癒える筈が、ありませんでした……」
違う……。
あの小説を読んだ時、華乃子は震えるくらい嬉しかったのだ。
独りぼっちだった華乃子に、雪月が寄り添ってくれたような気がしたのだ。
でもその気持ちと、今さっき命の危険に晒されたという事実を並べると、どうしても『何故助けてくれなかったのか』という問いに答えが欲しかった。
しん、と静まった部屋に落ちたのはこんな言葉だった。
「私は失礼します……。……華乃子さんは休んでください……」
雪月がなにも答えを言わずに部屋を去って行く。
『だからあいつは駄目だと言ったんだ』
『あやかしで人に寄り添うやつはそう多くない。これがあやかしというものなんだ』
太助と白飛が口々に言う。確かに二人は最初から雪月は止めておけ、と言っていた。その意味がようやく分かった。
でもやはり雪月のことを考えてしまう。好きだと言った相手を、あやかしはそう簡単に裏切れるものなのか。
どうして……、という言葉が、華乃子の頭の中に渦巻いた……。