「えっ、何!? 急に寒いんだけど!?」
寒さのあまりに叫ぶと、遠くから高笑いする雪女の声が聞こえた。
「それ見たことか、やはり人間だな! これしきの雪を操れぬくせに雪月さまと番おうだなどと、片腹痛いわ!」
そう言えば、この郷にやってきてから今の今まで、これだけ雪が降っているというのに、凍えるような寒さを感じなかった。幽世というところには温度がないのかと思ったけど、そうじゃない。長屋で雪月が雪を舞わせて見せたように、雪女たちには雪を操る力がある。今まで寒さを感じなかったのは雪女である雪月や雪樹が環境を華乃子に合うように整えてくれていたのだろう。それが、雪月も雪樹も居ない今は、もろに雪の冷たさを感じる。屋敷の屋根は見えているけれど、正直膝のあたりまで降り積もった雪の中を歩いて帰るのも大変そうだ。そう言えばさっき此処まで来るのに、雪樹は難なく雪の上を歩いていた。あれも雪女の能力なんだろうか。
「いやいやいやいや。なにか考えてる場合じゃない。兎に角歩いて戻らなきゃ」
ブーツの足を交互に前に出すけれど、積もった雪が邪魔をして、全然前に進めない。さっき雪樹が難なく歩いていたのは、やはり雪女の能力だったのだと思い知る。
「ちょっとおおお、寒いわよおおお!」
雪が吹き付ける中、両手を擦りつけて足で雪を掻く。
ざくざくざくざく。
少しずつ進むけれど、来る時に容易かった屋敷からの道のりは、雪樹が居ない今、とてつもなく遠い。吹雪く雪にもう頬の感覚が無くなりそうだった、その時。
『おーい、華乃子! 全然戻ってこないから、探したぞ!』
『こんな吹雪の中、何無茶してるんだ!』
雪の向こうから跳んでくるのは白飛と彼に乗った太助だった。
「太助! 白飛!」
びゅうう、と雪が吹き付ける中、二人が駆けつけ、白飛に乗った太助が白飛から飛び降りて華乃子の足に擦りついた。少しでも華乃子を温めようとしたのだろうけど、それくらいではこの寒さはまぎれない。
『どうしたんだ、こんなところで一人きりで』
「そ、それが、此処まで連れてきてくれた雪女の子供に置いて行かれちゃって……」
簡単に事情を説明すると、太助も白飛も雪女たちに怒ってくれた。しかし、今はそんなことをしている場合ではない。怒りを前へ進む力に変えなければならない。
「白飛、太助と私を乗せて、屋敷へ帰れる?」
『うむ……。そのつもりで此処まで来たんだが、……ちょっと想像以上に寒くて、身体が固まってしまっている……』
言われて触れば、白飛の薄っぺらい身体がかちかちに凍り始めていた。
「ちょっと……! そんな危険を冒してまで、来てくれなくても良かったのよ!?」
『いやしかし、もともと俺たちは身を投じてでも恩を返す為に華乃子の傍に居るのだし、三人寄れば文殊の知恵と言うだろう。何か策が編み出せないか……』
太助が腕を組んで、ううむ、と悩む。どうしよう。これでは、三人で文殊の知恵どころか、三人で凍ってお陀仏だ。
ああ、せめて此処に一人くらい雪女の味方が居てくれたら……。
そう思って、思いついた。
(……私だって、半分雪女だわ……)