正月休み。華乃子は当然実家に呼び出されることもなく、雪月の郷に来ていた。幽世の中でも一面真っ白の山の奥で、雪月と華乃子のことを、沙雪を筆頭に大勢の雪女たちが出迎えた。

「お帰りなさいませ、雪月さま」
「此度(こたび)のご帰郷、一族揃って嬉しく存じます」

こうべを垂れる雪女たちに、雪月は、うん、と鷹揚に頷いただけで通り過ぎてしまう。その、現世での雪月の態度との違いに、郷(ここ)では彼が一族の頂上に居るのだと知る。頭を下げたままの雪女たちの視線が、華乃子に刺さったような気がした。
華乃子は東京で買って用意していた風呂敷に包んだ和菓子を、並んだ雪女の一番端に居た人に差し出した。初めて他人の家を訪れるときの礼儀だが、雪月が家、と言っていたので家族程度を想定していた為、まさか大きな屋敷に大勢の雪女たちが待ち構えているとは想定外だった。

「あの、これ皆さんで……」

そう差し出すものの、屋敷全員分には数が足りない。更に、差し出した相手の雪女は受け取らなかった。

「こんなもので我らに取り入ろうとするのか、人間。物で釣ろうなど、力のないお前には似合いの方法だな」

そう吐き捨てるように言って、あまつさえ、差し出した風呂敷包みをパシンと叩(はた)いて床に落とした。
……人間同士だったら、こうして挨拶することで円滑な人間関係が始まるのだが、幽世(ここ)では違うらしかった。華乃子なりに、雪月の家族と仲良くなれるよう一生懸命考えて選んだ品だっただけに、こういう扱いをされるとしょんぼりする。一方で少し先を行っていた雪月がその行為を咎めると、雪女はこうべを垂れた。

「華乃子さんなりに気を遣ってくださったんだ。その心を無碍にするな」
「は……。しかし……」
「言い訳は聞きたくない。今回僕は、彼女を正式な番候補として招いている。粗相のないようにしろ」
「……御意……」

頷いた雪女たちは悔しそうな顔をしていた。
……これが、力が統べる世界……。華乃子は目の前で繰り広げられたやり取りを呆然と見ていた。