帰宅すると太助と白飛が血相を変えて飛んできた。
『華乃子! どうしたんだ! ふらふらしているぞ!』
『相当具合が悪そうだぞ! 大丈夫なのか!?』
そう叫んで華乃子の周りをぐるぐる回っているが、正直相手にして居られない。
「ちょっと今、何も考えられないから、放っておいて……」
そう言って自室に入ると、バタンとベッドに倒れこむ。家族の中で異質だとは思っていたけど、存在自体が異質だとは思わなかった。父が私を追い出したりせずに別宅に住まわせるだけで済ませたなんて、なんて出来た人間だろうかと思う。
(存在自体、異質、かあ……)
むしろ太助や白飛に近いのか……。あ、駄目、落ち込みそう。
華乃子はその夜、枕を被って寝た。
翌日、仕事はお休み。のろりとベッドから起き出して顔を洗うと、自分の顔が何の感情も載せないまま鏡の中から見つめてきた。
(……先生は、あの後何を言いたかったのかしら……。……勝手に私がときめいていただけで、単なる同族意識だったのかな……)
幼い頃のあの思い出の子と再会できたという喜びも、華乃子をモデルに恋物語を書いてくれた喜びも、自分が半分雪女だったという事実で全部吹っ飛んでしまっていた。
雪月に好意のようなものを抱いていた自分の気持ちも、分からなくなってしまった。
(……人間より、同族の方が気持ちが通じるから……、とか、そんなこと、あるのかしら……)
自分の中のものが、何もかもひっくり返ってしまった。それは自分の今まで生きてきた全ての時間が無くなったことと、等しかった。
(……私、これからどうやって気持ちを持って生きていけばいいんだろう……)
そんなことをつらつら考えていたら、はなゑが部屋の扉をノックした。
「お嬢さま、お客さまでございます」
「お客?」
この別邸に移り住んで以来、家族だって顔を見せたことはなかった。一体誰が、と思って応接間へ行くと、其処には沙雪が居た。