見つめられる眼差しに、華乃子の視線が絡む。
心臓がどきんどきん、と次第に早く拍動を打ちだした。
しかし、雪月は華乃子の胸の高鳴りに反して、こんなことを言った。

「華乃子さんは、どうしてご自分にあやかしが視えてしまうのか、ずっと疑問でいらしたんでしょう?」
「は…………? は、……はあ、まあ……」

間抜けな返事をしてしまっても、許して欲しい。ここで告げられるべき言葉は、愛の告白だったはずだ。それがないということは、やはり雪月は華乃子のことを何とも思っていないということか……。
内心とてもがっかりして、華乃子は少し視線を俯けた。雪月は話を続ける。

「華乃子さんご自身から少し目を離してみて、どうしてお父さまが、華乃子さんがあやかしと関わっていたことをご存じだったか、考えてみてください」
「父……、ですか?」
「そうです。例えば僕と華乃子さんが会っていたことを、お父さまは見ていらした。そしてお父さまは、僕のことを『人間には見えないあやかしだった』とおっしゃったのでしょう?」

確かにそう言われて、きつく折檻された。あの後蔵に閉じ込められて、とても怖い思いをした。それがどうしたというのだろう。

「つまり、僕のことを『人間には見えないあやかし』だと分かるお父さまも、あやかしが視える目を持っていた、とは考えられませんか?」
「ええっ!?」

そんなこと考えもしなかった! でも、言われてみれば華乃子が『視えてる』ことを『見て』いたのだから、父は『視えて』いたのだろう。……こんなことって!
目を丸くする華乃子に、雪月は爆弾発言を続けた。

「それでですね……。僕の知っていることから申し上げると、……つまり、お父さまは『視える』体質で、華乃子さんのお母さまがあやかし……雪女です」
「ええっ!?」
「だから、ご両親の血を引いた華乃子さんは『視える』し、半分雪女なのですよ」
「えええっ!?」

次から次へと驚きの連続で、頭が働かない。雪月の衝撃の話はまだ続く。

「華乃子さんのお母さまは、郷の反対を押し切って、華乃子さんのお父さまとご結婚され、華乃子さんをもうけた。しかし、雪女の郷の掟は厳しい。華乃子さんのお母さまは、郷に連れ戻されたのです」

そうか。だから私だけ異母姉なんだ……。弟と妹は後妻のお継母さまの子供だから……。

「じゃ……、じゃあ、私が昔っから夏に弱かったのも、火が苦手だったのも、私のお母さまが春から秋まで日傘をさしてらしたというのも……」
「そう。僕と同じで、雪女だからです」
「えええっ!!」

なんていうことだろう! 全ての符号が嵌って聞こえてしまう!
うう~ん。知恵熱が出そうだ。正直もう此処までで既に情報が許容量を越している。しかし雪月はまだ何か言いたそうだった。

「……先生……。……多分、まだ何かあるんでしょうけれど、今日はこの辺にして頂けませんか……? 正直、私、受け止め切れません……」

何せ、自分の出自から覆ってしまったのだ。今までの人生を振り返るくらいの時間が欲しい。それは雪月も分かったようで、頷いてくれた。

「そうですね……。一度に詰め込み過ぎても、直ぐには飲み込めませんよね……。このお話の続きは、また別の機会にしましょう」
「お願いします……」

華乃子はよろりと立ち上がると、雪月の家をお暇した。