首尾よく指輪のカタログを手に入れた雪月と共に、店を出た。やっと妙な緊張から解放されて、ほっと息を吐(つ)く。
「ありがとうございました、華乃子さん。おかげで店を見ることも出来ましたし、かなり話を想像が出来るようになりました」
雪月が微笑んで言うのに、そんなお礼を言ってもらうようなことをしたかな、と落ち込む。
「いえ……、私は先生の隣に居ただけで、なにも……」
「そんなことありません。やはり男の僕が一人でああいう店に入るのは気後れしますから、居て下さっただけでもありがたかったです」
居ただけで『も』? ほかに何かしただろうか?
疑問の目で問うと、雪月はふふっと笑みをこぼした。
「それは秘密です」
そう言って口に指をあてる。軽井沢の時と同じだな、と思った。あの時も結局何を言ったのか教えてもらえなかったし……。
「でも……、本当に少しでもお役に立てていたのでしたら、嬉しいです……」
胸は痛いけど、ヒロインを幸せにするという話を書くことを持ち掛けなければ、こんなスーツ姿の雪月にも会えなかったわけだし、悪いことばかりではない。
実らない想いは別にして、恋う人の素敵な姿を見られたのは、それはそれで嬉しかったのだ。