翌日夕方から、華乃子は会社の帰りに雪月の許へ行って食事を作って帰る生活になった。はなゑに習ったとはいえ、華乃子は火を扱うのが苦手だ。毎回かまどで火あぶりにされているのだろうかと思う程に汗をかきながら、時には目まいがしそうになるのを感じつつ、雪月の為の食事を作る生活をしていた。そうして何日か通っているうちに、ある日近所のお婆さんに呼び止められた。
「あんた、あの子の知り合いかい?」
今、華乃子が出てきた長屋を指差してあの子、と言うのだから雪月の事だろう。そうです、と応えると、そりゃよかった、とお婆さんは皺くちゃの顔でにっこり笑った。
「あの子、男のくせに下女もつけずに独り暮らしなんかしてるもんだから、あたしゃ心配で二度、三度、差し入れを持って行ったことがあるんだよ。世話してくれる恋人が出来たんなら、良かったことだ。まあ、仲良くやりな」
恋人ではないけれど、食事を作りに行っていることは確かなので、しっかり栄養を摂らせなければと思う。ご近所さんにも栄養状態を心配されていたなんて、どんな青い顔で歩いていたんだろう。取り敢えずこれからは出来るだけ様子を見に来ることにしよう。華乃子が来れない時は、編集部の誰かに頼んでおけばいい。そう思って華乃子は帰宅した。