冬、学校からの帰り道。降り積もった雪を踏みしめながら歩いていたら、道の角の祠の横に作られた雪だるまの横に佇んでいた少年が居た。
少年は寒そうに身体を縮めて両手を息で温めている。
ここらでは初めて見る子だけど、何処の子だろう。そう思って華乃子はその子に話し掛けた。
「どうしたの? おうちに帰らないの?」
そう問いかけると、少年は母親を待っているんだ、と言った。
「でも、こんな雪の中で寒いでしょう」
少年は羽織もない薄っぺらな着物に草履の姿だった。素足が雪に触れてしもやけが出来ている。
足が痛そうだ、と華乃子が言ったら、痛いけどそれよりお腹がすいた、と少年は言った。
「待ってて。しもやけに良い薬を持ってきてあげる。あと、おにぎりも」
待っててね! と背後に声を掛けて、華乃子は家に走って戻った。
「はなゑ! 軟膏と、あとおにぎりを一つ握って頂戴」
家に飛び込んで来るなり大声を出した華乃子に、乳母のはなゑはまあまあ、どうされました、と驚き顔だ。
「外の祠のところに子供が居るの。お母さんを待ってるんだって。足の指のしもやけがひどくて、あとお腹を空かせているから、それで……」
そう説明するとはなゑは、それは大変ですね、と言って、おにぎりを二つと軟膏の瓶を持たせてくれた。
華乃子は急いで家を飛び出して祠の方へ向かう。するとさっきと同じ姿勢で少年は佇んでいた。
「お待たせ! これ、軟膏。よく効くのよ。私もこれを塗るの。そしてこっちがおにぎり。はなゑが二つ握ってくれたわ。お食べなさい」
真っ白な顔の少年は、頬に朱を刺して、ありがとう、と小さな声でお礼を言った。そしてお腹がすいていたのか、むしゃむしゃとおにぎりを食べ始めた。
お米には神様が宿ってるんだよね、と微笑みながら、少年はあっという間に片方のおにぎりを最後の一粒まで平らげ、もう一つは雪だるまにお供えすると、華乃子から軟膏の瓶を受け取って足のしもやけに塗り込んだ。
「ありがとう……。こんなところで立っていて、不思議がられるかと思ったら、君は親切なんだね」
確かに傘もささず、帽子もかぶらずにこんな天気の中立っているのは不思議だったけど、それ以上に寒そうだったから声を掛けた。
「お母さん、何時頃迎えに来てくれるの?」
「わかんない。でもすぐ戻るよって言って行っちゃったから、僕は此処で待ってるしかないんだ」
そう、と言って、少しの間一緒に居たけど、まだ雪も降っていて寒かったので、華乃子は家に帰ることにした。
少年が本当にありがとうと言って、手を差し出した。握手かと思って手を差しだしたら違った。
「手、上に向けて。……そう……」
少年はそう言うと、華乃子の手のひらにきらきらと白く光る小さな雪ウサギを乗せた。
「わあ、かわいい!」
雪ウサギを見て目を輝かせた華乃子に、少年は照れくさそうに笑って、こうも言った。
「今度会えたら、もっと素敵なものをあげる。だから待っててね」
『もっと素敵なもの』が何なのか分からなかったけど、こんなにかわいい雪ウサギを作ってくれるんだから、その、『もっと素敵なもの』が楽しみだ。
華乃子が少年に向かってありがとうと言って手を振ると、少年も手を振り返して、またねばいばい、と別れた。
『今度』はなかったけど、翌日、少年が居た雪だるまの横にはひと口齧ったおにぎりが供えられていた。
少年は寒そうに身体を縮めて両手を息で温めている。
ここらでは初めて見る子だけど、何処の子だろう。そう思って華乃子はその子に話し掛けた。
「どうしたの? おうちに帰らないの?」
そう問いかけると、少年は母親を待っているんだ、と言った。
「でも、こんな雪の中で寒いでしょう」
少年は羽織もない薄っぺらな着物に草履の姿だった。素足が雪に触れてしもやけが出来ている。
足が痛そうだ、と華乃子が言ったら、痛いけどそれよりお腹がすいた、と少年は言った。
「待ってて。しもやけに良い薬を持ってきてあげる。あと、おにぎりも」
待っててね! と背後に声を掛けて、華乃子は家に走って戻った。
「はなゑ! 軟膏と、あとおにぎりを一つ握って頂戴」
家に飛び込んで来るなり大声を出した華乃子に、乳母のはなゑはまあまあ、どうされました、と驚き顔だ。
「外の祠のところに子供が居るの。お母さんを待ってるんだって。足の指のしもやけがひどくて、あとお腹を空かせているから、それで……」
そう説明するとはなゑは、それは大変ですね、と言って、おにぎりを二つと軟膏の瓶を持たせてくれた。
華乃子は急いで家を飛び出して祠の方へ向かう。するとさっきと同じ姿勢で少年は佇んでいた。
「お待たせ! これ、軟膏。よく効くのよ。私もこれを塗るの。そしてこっちがおにぎり。はなゑが二つ握ってくれたわ。お食べなさい」
真っ白な顔の少年は、頬に朱を刺して、ありがとう、と小さな声でお礼を言った。そしてお腹がすいていたのか、むしゃむしゃとおにぎりを食べ始めた。
お米には神様が宿ってるんだよね、と微笑みながら、少年はあっという間に片方のおにぎりを最後の一粒まで平らげ、もう一つは雪だるまにお供えすると、華乃子から軟膏の瓶を受け取って足のしもやけに塗り込んだ。
「ありがとう……。こんなところで立っていて、不思議がられるかと思ったら、君は親切なんだね」
確かに傘もささず、帽子もかぶらずにこんな天気の中立っているのは不思議だったけど、それ以上に寒そうだったから声を掛けた。
「お母さん、何時頃迎えに来てくれるの?」
「わかんない。でもすぐ戻るよって言って行っちゃったから、僕は此処で待ってるしかないんだ」
そう、と言って、少しの間一緒に居たけど、まだ雪も降っていて寒かったので、華乃子は家に帰ることにした。
少年が本当にありがとうと言って、手を差し出した。握手かと思って手を差しだしたら違った。
「手、上に向けて。……そう……」
少年はそう言うと、華乃子の手のひらにきらきらと白く光る小さな雪ウサギを乗せた。
「わあ、かわいい!」
雪ウサギを見て目を輝かせた華乃子に、少年は照れくさそうに笑って、こうも言った。
「今度会えたら、もっと素敵なものをあげる。だから待っててね」
『もっと素敵なもの』が何なのか分からなかったけど、こんなにかわいい雪ウサギを作ってくれるんだから、その、『もっと素敵なもの』が楽しみだ。
華乃子が少年に向かってありがとうと言って手を振ると、少年も手を振り返して、またねばいばい、と別れた。
『今度』はなかったけど、翌日、少年が居た雪だるまの横にはひと口齧ったおにぎりが供えられていた。