◯
「おつかれさまでしたーっ」
朝からのメンバーは、5時で夜のメンバーと交代することになっている。私、紗栄子、満島くんは、5時に切り上げてタイムカードを押し出した。
「おつかれ、日浦さん」
「ななちゃん、また明日ねー」
2人は笑顔で手を振って、裏口から出て行った。紗栄子の楽しそうな笑い声が、扉のむこうから聞こえてくる。
仲良さそうだな。もしかして、付き合ってるのかな。
考えたくないけれど、そんな想像が膨らむ。
「日浦さん、どうかした?」
熊田店長に声をかけられ、私は慌てて立ち上がった。
「いえ、おつかれさまでしたっ!」
「おつかれ。明日もよろしくねー」
店を出て駐輪場に向かう途中で足を止めた。
「……っ!」
声をあげそうになって慌てて口をつぐみ、とっさに壁に隠れた。
……紗栄子と満島くん。
壁の向こう、屋根の下で、2人がキスをしていた。
頭を殴られたような衝撃に襲われた。
その瞬間、わかってしまった。
2人の雰囲気がほかの人と違うような気がしたのは、私が敏感になっているからでも、気のせいでもなかった。
恋愛に疎い私でもわかるくらい、本当に2人の仲がいいからだったのだ。
朝、自転車を停めたときと同じ場所なのに、目の前にあるのは2人の世界だった。