「満島くん」
店長が仁王立ちしている。
「いつも言ってるけど、もう少し早く来るように」
「すいません気をつけますっ!」
と頭を下げる満島くんを見て、ふいに懐かしくなった。朝が弱く、いつも遅刻ギリギリに来て怒られていたっけ。
見た目はずいぶん変わったけど、中身はあまり変わっていないみたいだ。
店が開いて、女性2人組が入ってきた。
「いらっしゃいませー!」
一斉に声がして、私も後に続く。
「うーん。まだ声出てないなあー」
すかさず紗栄子にダメ出しをくらう。ふう、と隣でため息が聞こえて、呆れられたのかと思えば、
「まだ力が入ってるね。そういうときは……」
いきなり脇腹をくすぐられ、私は、ひゃっ、と声をあげて身をよじった。
「ななちゃん、かわいいー。ね、航」
突然、カウンター越しにキッチンにいる満島くんに話を振られて、ドキリとする。
満島くんは難しい顔をした。
「紗栄子、あんまり日浦さん困らせんなよ」
「だ、大丈夫です」
私はドキドキしながら答える。
「ほらね?」
「はいはい。まあいいけどさ」
満島くんがあきらめたように苦笑した。
胸がズキンと痛んだ。
『航』『紗栄子』
2人、名前で呼び合ってるんだ。
ほかの人も彼女のことを名前で呼んでいた。だから、この痛みはきっと、そのせいだけじゃない。名前を呼ぶときの響きに、どこか親密さを感じたから。
気のせいかもしれない。私が敏感になっているだけかも知れない。
でも、気になって仕方なかった。