自己紹介をして、1時間後。
私と葵は、まだ公園にいた。
私は初対面の相手に、今日の出来事、つまり失恋話を、打ち明けていた。
葵はとても聞き上手だった。話し下手な私が、考えるより前にするすると言葉が出てくる。詐欺師に向いていそうだ。
「奈々瀬は、まだそいつのことが好きなの?」
「う……わからない」
付き合っていたのは高校2年のとき、4ヶ月だけだ。だけどそのあとも、気づけば満島くんを目で追っていた。大学に入って会わなくなれば、そして新しく彼氏ができたりしたら、忘れられるかもしれないと思っていた。しかし彼氏はできず、忘れられもしなかった。そして、また会ってしまった。
「ショックだった。満島くんの彼女が、私とは正反対のタイプの、小さくて明るくてかわいい女の子だったから」
はっきり聞いたわけじゃないけれど、たぶんそうなのだろう。付き合っていないのにキスしていたなんて言われたら、ますます混乱してしまう。
別れて3年も経っているのに、未練がましいことこの上ない。満島くんだってこんなに引きずられていたら気まずいだろうし、気持ち悪いと思われるかもしれない。それは嫌だった。
「なんで毎日バイト入れちゃったんだろう……」
特大のため息が出た。
店長に本当に人手が足りないのだと懇願されたのと、予定もなかったために、3月中はほぼ毎日バイトを入れてしまったのである。
それは満島くんと紗栄子もだった。しかもだいたいが私と同じ時間。同じ歳のほうが気を遣わなくていいだろうという店長の計らいかもしれないけれど、その計らいがますます私の傷を広げることになった。
「じゃあさ、1ヶ月だけ、付き合ってみる?」
葵の言ったことが、理解できなかった。
「付き合うとは……?」
「彼氏と彼女になる、てこと。春休み限定で」
「な、なんで?」
「さっき、新しい彼氏ができれば忘れられるかも、て言ったじゃん。だから、応急処置的に新しい彼氏をつくってみるのはどうかなって」
「いやいや、だからってよく知りもしないのに付き合うなんて」
「これから知ればいい。1ヶ月しかないから急ぎめで」
「……」
この内容急ぎめで覚えといてー、と今日店長に渡されたマニュアルを思い出す。マニュアルはわかるけれど、こういうときにその言葉は使わないような気がする。
「というか、なんのために?」
そのときやっと、肝心な疑問が湧いた。
「私はいいとして……、それ、あなたにメリットはあるの?」
「いいんだ?」
「そういうことじゃなくてっ」
「メリットならあるよ」
葵は寂しそうに、少しだけ笑った。
「俺も、失恋したから。だから、慰めてよ」