いや、そうじゃない。能力のせいなんかじゃない。ずっと言い訳のようにしてきたけれど、これはすべて“俺”が巻き起こしたことだ。“俺のせい”だ。
「慧、大丈夫……? なんの電話だったの……?」
「なんでもない」
 心配そうに問いかける母親にそう返すと、丁度タクシーが家の前に着いた。
 俺は母親を病院に送りながら、車の窓から流れる景色を茫然と見つめる。

 俺がこの世にいなかったら……、記憶からいなくなれば、きっと何もかも元通りになる。 でも、柚葵を愛しく思う気持ちが、自分のことを弱くさせる。“決断”できなくなっていく。
 気づいたら、自分の腕を強く握りすぎて、爪が食い込み内出血になっていた。
 でも、こんな痛みなど、俺が傷つけてしまった人にくらべると、足りなさすぎるほどだ。
 自分を許してもらうための謝罪なんかいらない。その通りだと思った。
 今の俺にできることは、たったひとつのことしかない。
 『あの子の記憶から今すぐ消えてよ!』という、美園の言葉が、いつまでもいつまでも頭の中で響き続けた。