力なく答えた俺の言葉に刺激され、美園は激しく声を荒げた。
 俺は受話器を握りしめたまま、心を読まずとも分かってしまう彼女の激しい怒りに、打ちのめされる。
『柚葵は、転校した後も同級生が怖くて、中学三年間もずっと独りで過ごしたの! 私ともしばらく話せなくなって、食事も取れなくなって、でも全部自分で乗り超えて、やっと笑顔を見せてくれるようになったのに……』
「え……」
 ――知らなかった。まさかそんなに最近までそんな状況で過ごしていただなんて。
 柚葵の家族や、周りにいた人の気持ちを想像すると、胸がちぎれそうな思いになった。
 その様子をずっとそばで見ていたのは、きっと美園だったんだろう。どんなに辛い気持ちで、柚葵のそばにいたんだろう。
『自分の罪を晴らしたかった? 優しい自分に生まれ変わりたかった?』
「俺は……」
『あんたも小学校のクズ同級生とおんなじだ。あいつら、偶然街で再会したとき、許してくれる?あの時はごめんねって……、私の隣にいる柚葵に簡単に頭下げやがった。反吐が出る。自分が綺麗になりたいだけのくせに。柚葵の私物を捨てたことも、集団でシカトしたことも、SNSに面白おかしく柚葵のことを書き込んだことも、全部時間が解決してくれたものだと、勝手に思い込んで、“過ぎたこと”にして……!』
 何も言い返す言葉なんかない。ただ受け止めることしかできない。俺が見て見ぬふりをしている間に、柚葵はそんな仕打ちまで受けていただなんて。
 心の中に大きな穴が開いていくのを感じながら、俺は受話器を握る力だけ残して、ただただその場に立ち尽くす。
『あんたは、柚葵が思い出したくないトラウマそのものだから。だからもう、柚葵に関わらないで。もうあの子から、何も奪わないで。私と柚葵の関係は、あんたのせいでまた壊れかけてる。自分を許してもらうための謝罪なんか、いらないから』
 そう言い残して、一方的に通話を切られた。
 ツーツーという無機質な音が鼓膜を震えさせ、その音に体温すらも奪われていくようだ。
 受話器を持ったままだらんと垂れ下がった腕に、何も力が入らない。
 ……大切な人ほど、自分から遠ざけるべきだと、言われているようだった。
 俺は、柚葵から大切な友人すら奪ってしまうところだったのか。
 何もかも、この能力のせい……。