少しの期待を胸に、俺はそのノートを開いた。

【拝啓 この能力を受け継ぐ者へ
 まず、君には謝らないといけないことがある。
 もしこの能力のせいで、君の人生を苦しめてしまっているのなら、それはとても心が痛む事実だ。
 何か生きていく術を探して、このノートを見つけたのかもしれないが、残念ながら魔法のような解決策はない。
 だが、能力を完全に消す方法ならある。それは、己の記憶をすべて消すことだ。
 我々のこの奇妙な能力は、記憶と非常に強く結びついている。
 運よく能力が発症しなかった子孫にも、「本来自分には読心の能力がある」という記憶が少なからず残っているんだそうだ。
 運悪く、その記憶を呼び起こしてしまったものだけが、この力を受け継いでしまうのだ。その代わり、勉学や芸術、運動など、何かの能力にも長けていることが多い。私はたまたま芸術面にその才が現れた。
 
 君は今、怒っているだろうか。私の代でなぜこの力を根絶やしにしてくれなかったのかと。
 それに関しては、深い深い訳がある。
 私の妻、清音(キヨネ)もまた、異能な力を持った人間だった。
 彼女は、“未来が見える”能力を持っていた。
 私は彼女と同じ大学に通っていたが、読心の力で彼女が普通ではないことがすぐに分かった。
 異能者同士惹かれあうのは遺伝子的によくあることだと聞いていたが、私たちは慰めあい、求めあい、当然のように惹かれていった。誰にも邪魔をされない土地で静かに暮らそうと、大学を出たら北の国に向かった。
 子を作ると遺伝する可能性があることは知っていたが、幸い清音には未来を読む力がある。
 この力が自分たちの子孫に影響する未来は見えず、私たちは手を取り涙を流した。
 もしかしたら、普通の夫婦のように生きられるかもしれない。ささやかな光が差す。
 しかし、運命はそう簡単にはいかない。
 清音のお腹に子が宿ったころ、まだ発達途上だった自動車に私が轢かれ死ぬ運命を見たというのだ。
 予知能力のご法度は、“死ぬ運命を変えること”。
 そのことは、本人も私も十分知っていた。どんな代償が訪れるか分からないことも。
 だけど、私は今ここで死ぬわけにはいかなかった。
 我が子をこの目で見たかった。その、自分本位な願いで、運命を捻じ曲げてしまった。