■未来 side成瀬慧

 一緒にいたい。離したくない。
 それは、生まれて初めて、自分の気持ちに正直になって、強く願ったことだった。
 彼女が望んでくれるまで、隣にいてほしい。卒業しても、この先もずっと。

 柚葵と一緒にいる方法……それは、たったひとつしか無い。
 俺の能力を消すこと。それだけだ。
 人の記憶を消して、“リセット”することはできても、能力が完全に消えるわけではない。
 ましてや、柚葵の記憶の中から自分を消すことなんて、今の俺には考えられない。
 何か他の手立てはないか、俺は片っ端から曾祖父の書斎を漁ることにした。しかし、これといった手がかりは出て来ない。
「ここも何もなしか」
 今日も学校から帰るとすぐ、曾祖父の書斎へ引きこもり、みっちり詰まった本棚を下から順に漁っていく。一冊引き抜くと左右の本が飛び出てしまうくらい、かなりの密度で資料が詰まっている。途方もない作業に、俺は天井の高さまである本棚を見つめて、床に座り込んだ。
 調べるごとに、俺の中にはある感情がふつふつと湧き上がっていた。
 どうして、曾祖父は遺伝することが分かっていたのに子を作ったのか。
 この苦しみと呪いを子や孫に遺伝させても構わないと思ったのか。能力が遺伝することは手記に残されていたので、知らなかったわけではない。
 曾祖父は何もかも覚悟して、“家族”を作ったのだ。
 その結果が、この埃臭い部屋での籠城生活だ。曾祖父は死に際、いったい何を思ったのだろう。いったい何を思って、絵を描き続けたのだろう。
 届かぬ質問を天井に向かっていくつも投げかけていると、ふと一枚だけ木製の天井が浮いているスペースがあることに気づいた。
「なんだ、あの白いの……」
 天井の隙間から、何かノートのようなものが見える。
 俺はまるでそこに吸い寄せられるかのように、机に脚をかけ、板を外してみた。すると、そこには予想通り、古びた緑色のノートが隠れていた。
 なぜ、こんなところに……。
 パラパラとめくってみると、筆跡は間違いなく曾祖父のものだった。
 彼自身がここに隠した……? それとも、家族の誰かが……。
 いや、家族が隠すくらいなら捨てているはずだ。これは、曾祖父自身が隠したものだ。
 きっと誰かに何かを伝えようとして。
 もしかしたら、柚葵と一緒にいるための、何かヒントがあるかもしれない。