さっきまで食べていたチョコの甘さが一気に引いていくほど、空気が、ピリつく。
 でも、私は目を逸らさずに全部を伝えようと思った。けれど、桐は何かに失望したかのように、私に問いかける。
「アイツが柚葵の高校にいたの? もしかして陸上部辞めるどうのこうので校門で揉めてたやつ?」
「あっ、うん。そっか、あの日桐もそばにいたもんね」
「やっぱりアイツだったんだ……!」
 そう言うと、桐はテーブルをドンッと勢いよくたたいて、頭を抱え込んだ。
 やっぱりということは、桐は何かを感じ取っていたのだろうか。顔立ちが似ていることに気づいていたとか……?
「柚葵、忘れたの? アイツのせいで柚葵の声は奪われたんじゃん」
「うん、でもね、それはあくまでもきっかけで」
「きっかけも何も、私はアイツを許せない! だって柚葵はあの日のせいで、転校する羽目になって……、家族以外と話せなくなって」
「うん……」
「私とでさえ、柚葵の家の中でも、一時期話せなくなったって言うのに……」
 そう言われて、私は中学二年生になるまで、自宅でも桐と話せなくなってしまった日々を思い出す。
 たったひとり、親友と呼べる人なのに。
 “あの学校”の制服を桐が着ているからというだけで、声がまったく出なくなってしまったのだ。
 もし、あの日声が奪われていなかったとしたら、私はきっと高校まで桐と一緒に学校生活を送ることができただろう。きっと、そんな未来もあったんだろう。
 桐は、私がいなくなってからあの学校で孤立した生活を送っていたと、風の噂で聞いた。そのことへの罪悪感で、桐の顔を見るのも辛い時期があったのだ。
 それでも桐は、私との関係を、断ち切らいでいてくれたんだ。
 桐からしたら、成瀬君は私たちの絆も奪った人、になっているんだろう。
 それなのに私は今、その成瀬君を好きになったと告白した。受け入れがたいのも無理はない。
「柚葵は、許したの? アイツを」
 涙を目にいっぱいに溜めた桐が、真剣な顔でそう問いかけてくる。
 成瀬君を許す、という言葉が自分の中でしっくりこなくて、私は言葉に詰まる。すると、彼女は今度は心配したような顔つきで、私の肩を揺する。
「もしかして、何か脅されてるの? また何か言われたとか……!」
「違うよ! それは違う。成瀬君を好きになったのは、私の意思だよ」