なんてぐるぐる考えていると、桐がニヤニヤした表情で私のことを見ていることに気づいた。
「分かった、好きな人できた?」
「えっ、いや、えっと……!」
「分かりやすすぎ。誰? クラスメイト? 予備校の生徒?」
 ずいっと聞いてくる桐に対して、私はただ顔を赤らめるだけでたじろいでしまう。
 好きな人、と直接的に聞かれると、こんなにも照れくさいような気持ちになるとは。
 どうしよう。成瀬君のことを好きになってしまったことを、今、言ってしまうべきだろうか。
 桐はもしかしたら傷つくかもしれないけれど……。
 「あのね、桐」と切り出そうとすると、彼女はほっとしたようなため息をついてから、話し始める。
「まあいいや、誰のことでも。恋愛感情じゃなくても。柚葵がそんな風に心を開けそうな人を見つけてくれたなら」
「桐……」
「ほんと、岸野のせいで柚葵の世界が一時狭められたことだけは、一生許せないけど。時間が癒してくれることもやっぱり、あるんだね」
「あ……えっと……」
 何か言葉をはさむ隙間もなくそう言われてしまい、私は下手くそな笑顔を浮かべる。
 桐の中で、成瀬君のイメージはあの日の岸野君のまま。
 当たり前だ。彼女は今の成瀬君のことも、能力のことも知らないのだから。
 桐は、自分の気持ちを上手く言えずにずっとうじうじしている私を、いつも引っ張ってくれた。
 ほかの女子に強く当たられていることを知ったときは、違うクラスなのにできる限り私に会いに来てくれた。
 岸野君に突然暴言を吐かれたあの日は、私の表情を見て私のことだけを信じて、本気で味方になってくれた。
 桐には、感謝の気持ちしかない。だから、彼女には正直でいたい。
「桐。あのね、私今、好きな人がいるの」
 そう言いだすと、彼女は「うん」と頷いて、優しい目を向けてくれた。
 次の私の言葉で、その優しい顔を崩してしまうことになるかと思うと、心が痛んだ。
「その好きな人はね……、岸野君なの」
「は……?」
「じ、じつは本名は成瀬慧っていうの。小学生のころは訳アリで偽名使ってたみたいで。で、今、同じ高校に通ってて、それで……」
「どういうこと? ごめん、全然分かんない」
 受け入れたくない、という気持ちが、彼女の大きな瞳から言葉以上に伝わってきて、私は思わず押し黙る。