『え……?』
「一緒にいたい。離したくない」
 この手の温かさを知ってしまった。だから、もう離したくない。失くしたくない。
 胸が張り裂けそうなほど、柚葵が好きだ。
 だから、どうか、光を見つけられますように。どんな小さな光でもいいから。
 俺はただ、大切な人を、大切にしたい。それだけだ。
 頬を赤らめたまま驚き顔で俺を見つめている柚葵を見たら、守りたいと思う気持ちに拍車がかかった。
 愛しさを噛みしめていると、柚葵が少し照れくさそうに、ぽつりとお願い事をつぶやく。
『成瀬君、あのね、ひとつお願いがあるの」
「ん?」
『いつか一緒に、芳賀先生の美術館に行きたいな』
「分かった。……必ず行こう」
 当たり前のように未来のことを約束してくれる柚葵に、簡単に涙腺が緩む。
 よかった、君に心を読む能力がなくて。
 どれだけ君が大切かを知られてしまうのは、なんだか気恥ずかしいから。
 今は、握りしめた手から漏れてしまう程度の気持ちで、十分だった。