そんな時、俺と同じように“消えてしまいたい”と思っている子をクラスで見つけたんだ。
 自分の本心を押し殺して、へらへら笑っている女子――志倉を見たら、排気ガスのような苛立ちが胸の中に広がっていった。
 俺と違って、“普通”に生きていける人間なのに、なんで消えたいなんて思っているんだ。
 だったら、俺の人生と交換しろよ。取り替えてくれよ。
 俺の代わりに、透明人間になってこの世をクラゲみたいに死ぬまで彷徨ってくれよ。
 誰にも見てもらえずに。誰にも覚えてもらえずに……。
 火花のように苛立ちが弾けて、気づいたらあんな言葉を放っていたんだ。
 志倉は、目を見開いて、そのあと絶望したような顔をして、喉を抑えて座り込んだ。
 あの映像が、スローモーションのように瞼の裏に焼き付いている。
 言ってから、激しく後悔した。声が出なくなった志倉を見て、罪を犯したような気持になった。
 俺は、言葉で、この子を殺した。
 なんにも悪くないこの子を、自分勝手な苛立ちで、殺したんだ。
 そして、茫然自失としている間に、廊下からその様子をたまたま見ていた、学園長の孫である女生徒が、ものすごい形相で志倉の元へ駆け寄り、その場にいた女生徒と俺を問答無用でビンタしたのだ。
 だけど、なんの痛みも感じなかった。目の前で喉を押さえながら震えている志倉に対して、波のように罪意識が押し寄せる。
 志倉の恐怖心がダイレクトに体の中に流れ込んで、俺は言葉を失った。何も言えなかった。消えたいどころではなかった。あの日俺は……死にたいと、思ったんだ。
 それからずっと、そんな感情を頭のどこかに浮かべながら、中学・高校と進学し、陸上競技と出会い、走って走ってその空虚な感情と戦って生きていた。
 でも、その延命治療のような行動も、陸上部の強制退部によって、ついに終わりが来たんだ。
 もういい。俺はもうこの苦しみを誤魔化す術を知らない。人生の終わりが分からないことが、こんなにも絶望的だなんて。こんな苦しみは誰にもわからない。
 そう思っていたときに――高校生になった志倉と、再会したんだ。
 なんの神様のいたずらかと思った。罪から逃げずにまだ生きろってことか。ふざけんな。もう頑張れねぇよ。怒りに近い感情が爆発した。
 だけど、彼女が落としたスケッチブックを見た瞬間、そんな気持ちはどこかへ消えていく。