『お前はいつも……、簡単に俺の罪悪感を乗り越えていくんだ……。自分を許すことはできない。許すつもりもない。だけど……』
 語尾の言葉が、どんどん掠れて聞き取りづらくなっていく。
 成瀬君の本心が見え隠れする言葉に、胸が千切れそうになる。
 一言も聞き逃さないように、私は息をひそめた。
『だけど……、お前と話せない一週間が、現実じゃないみたいに長く感じたりするんだ……』
【成瀬君。私は、成瀬君に伝えたいことがある】
『言うなよ』
 低い声で制されて、私はびくっと肩を震わせた。
 思いを伝えることすら拒まれたのかと落ち込んでいたら、すぐに彼の声が鼓膜を震わせる。
『志倉が好きだ。それが俺の、本心そのものだよ』
 地声より、少しだけ低い声で、そう囁かれた。
 今、どんな顔をして言っているの。分からないから、早く会いたいと思った。
 ただただ、君に会いたいという気持ちだけが、雪のように降り積もっていく。
 自分のことを好きになってくれる人が現れる日が来るなんて、想像もしていなかったよ。
 抑えきれない涙が、頬を伝い、顎を伝い、乾いたアスファルトを濡らしていく。
『許さなくていいから、志倉に会いたい』
 私も、会いたい。成瀬君に会いたいよ。
 成瀬君の言葉ひとつひとつが、自分の鼓動となって、心臓に刻み込まれていくみたいだ。
 言葉に形はないけれど、このまま、自分の体の一部になってしまえばいいのに。
『……なあ、今、どんな顔してんの? 泣いてんの?』
【泣いてないです】
 私は急いで涙を拭って、はなをすすった音が聞こえないように必死に我慢する。
 すると、成瀬君はまるでひとりごとを言うかのように、ぽつりと声を落とす。
『……俺の心も、志倉に読めたらよかったのにな』
【それってどういう意味?】
『俺がどんなに志倉を想ってるか、読んでもらえたら、楽だったのに』
 それはつまり、私になら心を読まれたっていいってこと?
 なんでだろう。どんな言葉より、その言葉が嬉しくて、胸の中がぎゅうっと苦しくなる。
 そうだね。これが電話じゃなければよかった。
 そしたら、この言葉にできないような、苦しくて張り裂けそうな感情も、全部君に伝えられたのに。
 もし、君が今目の前に現れたら、強く強く抱きしめる。
 まだ粗削りなこの感情を、そのまま君の鼓動に刻みたいから。