壁も床も真っ白で、建物の真ん中には美しい庭園がある。それを右手に見ながら“コ”の字に進んでいくというルートも、もう頭の中に刻み込まれている。
芳賀義春先生の作品だけがあるわけじゃないけれど、彼の作品はほとんどここに残されている。
はじめてここに連れてこられたとき、脳内に衝撃が走ったのを今でも覚えている。
水の中に浮かび上がっているかのような透明度の高い色合いに、繊細で柔らかなタッチ。触れたら消えてしまいそうなのに、絵の世界に引きこむ強い吸引力がある。
今まで見てきたどんなものより、美しく見えた。
私は、初期作品をひとつひとつ眺めながら、ゆっくりと目的地まで足を運んだ。
不思議と、一歩進むごとに、自分の中の気持ちが整理されていくのを感じる。
あの日の出来事を、ゆっくり思い出してみる。
私の声を奪ったのは自分だと、成瀬君は言った。とても苦しそうな顔をして。
とても驚いたし、ショックだった。心を開きかけた人が、思い出したくない過去そのものだったから。
今まで黙っていたことが許せない。正直、そんな感情も浮かび上がった。
だけど、そうと知ってから、今までの成瀬君を振り返ると、彼はどこまでも誠実でいてくれたように思う。
廊下でぶつかった時も、能力の秘密を打ち明けてくれた時も、文化祭で助けてくれた時も、スケッチさせてくれた時も……。
彼はいつも自分の中の罪意識と葛藤しながらも、私の弱さと向き合ってくれた。今の私を“見ていて”くれた。きっと罪悪感そのものである“私”を見ることは、とてもとても辛かったはずなのに。
逃げないでいてくれた。助けてくれた。正直で……いてくれた。
そして、私が心を開けば開くほど、成瀬君は悲しそうな顔になった。
……ねぇ、成瀬君。
“好きだ”と言ってくれたのは、本心だと思っていいの?
罪悪感も何もかも取っ払った君の、心の声だと、そう思ってもいいの?
分からないまま、私はついに今日一番見たかった、大好きな絵の前にたどり着いた。
壁一面のスペースを取って、床から天井までギリギリの大きさの絵画。
絵画の前には、“半透明のあなたへ”と書かれたプレートと、ちょっとした説明文が添えられている。
絵を見る前に、私は数秒目を閉じて、心の中のノイズを鎮める。
芳賀義春先生の作品だけがあるわけじゃないけれど、彼の作品はほとんどここに残されている。
はじめてここに連れてこられたとき、脳内に衝撃が走ったのを今でも覚えている。
水の中に浮かび上がっているかのような透明度の高い色合いに、繊細で柔らかなタッチ。触れたら消えてしまいそうなのに、絵の世界に引きこむ強い吸引力がある。
今まで見てきたどんなものより、美しく見えた。
私は、初期作品をひとつひとつ眺めながら、ゆっくりと目的地まで足を運んだ。
不思議と、一歩進むごとに、自分の中の気持ちが整理されていくのを感じる。
あの日の出来事を、ゆっくり思い出してみる。
私の声を奪ったのは自分だと、成瀬君は言った。とても苦しそうな顔をして。
とても驚いたし、ショックだった。心を開きかけた人が、思い出したくない過去そのものだったから。
今まで黙っていたことが許せない。正直、そんな感情も浮かび上がった。
だけど、そうと知ってから、今までの成瀬君を振り返ると、彼はどこまでも誠実でいてくれたように思う。
廊下でぶつかった時も、能力の秘密を打ち明けてくれた時も、文化祭で助けてくれた時も、スケッチさせてくれた時も……。
彼はいつも自分の中の罪意識と葛藤しながらも、私の弱さと向き合ってくれた。今の私を“見ていて”くれた。きっと罪悪感そのものである“私”を見ることは、とてもとても辛かったはずなのに。
逃げないでいてくれた。助けてくれた。正直で……いてくれた。
そして、私が心を開けば開くほど、成瀬君は悲しそうな顔になった。
……ねぇ、成瀬君。
“好きだ”と言ってくれたのは、本心だと思っていいの?
罪悪感も何もかも取っ払った君の、心の声だと、そう思ってもいいの?
分からないまま、私はついに今日一番見たかった、大好きな絵の前にたどり着いた。
壁一面のスペースを取って、床から天井までギリギリの大きさの絵画。
絵画の前には、“半透明のあなたへ”と書かれたプレートと、ちょっとした説明文が添えられている。
絵を見る前に、私は数秒目を閉じて、心の中のノイズを鎮める。