そう言われると確かに、いじめのようなものを受けてから、だんだんと上手く声が出せなくなっていたかもしれない。防衛本能が働いたのか分からないが、当時の記憶は朧げだ。
 奇跡的に受かった小中高一貫の私立学校に通っていた私だけれど、両親と相談し、中学は別の場所へ通うことになった。
 当時両親は、私の症状に気づけなかった自分たちを責めていた時期もあったけれど、今は家族皆で色んなことを受け止めて、日常を続けているつもりだ。
「うわーっ、からあげ美味しそう」
「柚ねぇに、巴のミニトマトあげる」
「あー、好き嫌いすると大きくなれないんだよ?」
 ダイニングテーブルに集まり、私と巴は席に着いた。
 父親は今日は帰りが遅く、食事は別になるとのことだった。
 母親は山盛りの唐揚げをテーブルに運んできて、「いただきましょう」と手を重ねた。皆で「いただきます」と言って、揚げたての唐揚げをひとつ口に運ぶ。
「熱々で美味しいーっ」
「さっきまで一緒だったなら、桐ちゃんも夕飯誘えばよかったのに」
「誘ったんだけど、今日はお稽古があるんだって」
「桐ちゃん、お嬢様だもんね。忙しいのねぇ」
 桐のおじいちゃんは、私が通っていた私立小学校の学園長だ。
 桐は昔おじいちゃんが学園長なのを理由に、少しクラスメイトに煙たがられている時期があった。
 私たちが仲良くなったのは丁度その時期で、思ったことを何でも言える桐がなんだか魅力的に思えて、あれからずっと一緒にいるのだ。
 そんな昔を思い出しながらも、唐揚げを巴と一緒に夢中で頬張っていると、母が何か心配そうな声で本題を問いかけてきた。
「保健室登校急に止めるって言ったときは驚いたけど……、普通のクラスはどう? 辛くない?」
「うん、上手く空気になれてるよ」
「それは……柚葵にとってはいいことなのかしらね……?」
 クスッと笑うお母さんを見て、逆に妹は意気揚々と宣言してくる。
「柚ねぇ! クラスにいじわるな子いたら、巴がやっつけてあげるからね!」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん結構気強いんだから。それに話せなくても念力飛ばせるし!」
 冗談っぽく、念を送る目つきをイメージして巴を見つめると、彼女はきゃっきゃっと楽しそうに笑った。
「でもたまに、柚ねぇの表情で何考えてるか分かるようになってきたよ!」
「ほんとに? そんなに顔に出てるかなあ」