真剣でまっすぐな瞳に、ずっと見つめられているからだろうか。成瀬君は私に対して、ずっと誠実でいてくれている気がするんだ。
 涙を瞳に溜めたまま成瀬君のことを見つめていると、彼は少し間を置いてから、ぽつりとつぶやいたのだ。
「俺の世界では、志倉以外が、透明人間に見えるよ」
 息が、止まりそう。名もなき感情が、次々とあふれ出ているせいで。
 だって、私が消えても、透明人間になっても、クラスの誰も気づきやしないと思って生きていた。でもそれでよかった。私は皆をイラつかせてしまう存在だから。
 それなのに、成瀬君は私だけにピントが合うと言ってくれるの?
 分からなくて、でも嬉しくて、とめどなく涙があふれてくる。
 思い起こせば、成瀬君と出会って、自分の感情を知ってくれる人が現れて、私の世界は間違いなく変わり始めていた。
 自分の気持ちを伝えられたとき、私は世界との繋がりを感じたのだ。……生きていると、感じたのだ。
 成瀬君の能力は少し怖いけれど、だけど、私、そんな能力を持った人に出会えて、よかったって思ったんだよ。見つけてもらえてよかったって。ずっと無駄に期待しないように誤魔化していたけれど、本当なんだ。本当に世界が変わった気がしたんだ。
 この世界に、私のことをちゃんと“見て”くれている人がいる。
 たったそれだけのことなのに。
「志倉、俺……」
 成瀬君が私に触れようとして、でもその手をすぐに引っ込めた。
 滲んだ景色の中、成瀬君の言葉のおかげで、ふつふつと自分の中である感情が沸き起こっていた。
 ……頑張りたい。私、本当はずっと、自分を許してあげたいと思っていた。
 この先何度自分に失望しても、乗り越えられる自分になりたい、と。
 成瀬君は私の頬を流れる涙を、今度はためらいなく親指でそっと撫でる。
「許せるよ」
『え……』
「志倉は、志倉自身を、もう許してあげられるよ」
「っ……っ……」
 声にならない嗚咽が、空気になって口から抜けていく。
 自分の中で、どうしようもないほど成瀬君の存在が大きくなっていることに、私は気づき始めていた。
 私は、情けなく流れ出る涙を自分の腕で拭って、成瀬君と改めて向き合う。
 彼の美しい半月型の瞳に、不安定で脆そうな自分の姿が映っている。
『ありがとう』
 心の中で、ゆっくりと、真剣に唱えた。