カーテンが顔に触れて思わず目を閉じると、次の瞬間にはなぜか温かいものに包まれている感覚に陥る。
恐る恐る目を開けると、カーテン越しに、彼に抱きしめられていることが分かった。
「なんでだよ……」
驚いている暇もなく、成瀬君はまた切なそうにつぶやく。
その一言は、春に廊下でぶつかった時と同じ一言で。
いつも絵に描いていた彼の腕の中は、想像以上に骨ばっていて固く、でも温かい。
ドクンドクンと波打つ鼓動が直に鼓膜を震わせて、頭の中を真っ白にさせていく。
「なんでそんなこと、お前が俺に言ってくれるんだよ……」
『成瀬君……?』
「お前、俺の能力が怖くないわけ……?」
抱きしめる腕が震えていることを知って、君の本心を、やっと聞けたような気がした。
そうか。君は、心が読める能力と、ずっと戦ってきたんだね。
私には到底想像のつかない世界で、生きてきたんだね。
人に自分の悲しみを伝えることは、とってもとっても、難しいね。
自分の本心を伝えて、何かが変わってしまうことは、とても不安だから。
自分の嫌いな部分と向き合うことは、とても勇気がいるから。
成瀬君の能力を聞いた時は本当に驚いたし、弱い心を読まれることは、じつは少し怖いよ。だって、私は私が嫌いだから。だから、自分を知られることはすごく怖い。
だけど……、今こうして、苦しそうに私を抱きしめる君は、なぜかとても身近に感じるんだ。
私たちに共通点なんてひとつもないはずなのに。
『その能力は正直少し怖いよ。だけど、成瀬君自身は、怖くない』
そう、心の中で答える。
それは私の偽りのない真実。混じり気のない透明な感情。
“君は怖くない”。
成瀬君のことを何も知らない私が、その時彼に伝えられる、精一杯の感情だった。
彼はその言葉に、私を抱きしめる力を、ほんの少し、強めたのだ。そんな彼に、自分が大切にしている言葉を、ふと贈ってあげたくなった。
『成瀬君。あのね……、自分のこと許してあげられるのは、自分だけなんだって』
その言葉は、芳賀先生が昔の記事に寄せていた言葉だった。芳賀先生は、“許す”ために絵を描き続けているのだと、多くの資料で語っている。
“自分を許すため”。私が絵を描き続ける理由も、もしかしたらその気持ちに近しいのかもしれない。
恐る恐る目を開けると、カーテン越しに、彼に抱きしめられていることが分かった。
「なんでだよ……」
驚いている暇もなく、成瀬君はまた切なそうにつぶやく。
その一言は、春に廊下でぶつかった時と同じ一言で。
いつも絵に描いていた彼の腕の中は、想像以上に骨ばっていて固く、でも温かい。
ドクンドクンと波打つ鼓動が直に鼓膜を震わせて、頭の中を真っ白にさせていく。
「なんでそんなこと、お前が俺に言ってくれるんだよ……」
『成瀬君……?』
「お前、俺の能力が怖くないわけ……?」
抱きしめる腕が震えていることを知って、君の本心を、やっと聞けたような気がした。
そうか。君は、心が読める能力と、ずっと戦ってきたんだね。
私には到底想像のつかない世界で、生きてきたんだね。
人に自分の悲しみを伝えることは、とってもとっても、難しいね。
自分の本心を伝えて、何かが変わってしまうことは、とても不安だから。
自分の嫌いな部分と向き合うことは、とても勇気がいるから。
成瀬君の能力を聞いた時は本当に驚いたし、弱い心を読まれることは、じつは少し怖いよ。だって、私は私が嫌いだから。だから、自分を知られることはすごく怖い。
だけど……、今こうして、苦しそうに私を抱きしめる君は、なぜかとても身近に感じるんだ。
私たちに共通点なんてひとつもないはずなのに。
『その能力は正直少し怖いよ。だけど、成瀬君自身は、怖くない』
そう、心の中で答える。
それは私の偽りのない真実。混じり気のない透明な感情。
“君は怖くない”。
成瀬君のことを何も知らない私が、その時彼に伝えられる、精一杯の感情だった。
彼はその言葉に、私を抱きしめる力を、ほんの少し、強めたのだ。そんな彼に、自分が大切にしている言葉を、ふと贈ってあげたくなった。
『成瀬君。あのね……、自分のこと許してあげられるのは、自分だけなんだって』
その言葉は、芳賀先生が昔の記事に寄せていた言葉だった。芳賀先生は、“許す”ために絵を描き続けているのだと、多くの資料で語っている。
“自分を許すため”。私が絵を描き続ける理由も、もしかしたらその気持ちに近しいのかもしれない。