無理やり納得させるように、バックパックの肩ひもをぎゅっと握りしめる。
 自分は日本人だけど、皆の中では私は同じ部類ではない、という認識になっていて、幾度となくそのような線引きをされてきた。
 その度に、私は自分のことを知ってもらいたいという感情が、そぎ落とされていった。
 何を言っても無駄。目立ったことはしないに越したことがない。普通に、誰にも突っ込まれないように生きていれば、自己嫌悪でこれ以上自分を嫌いになることはない。
 私は私をこれ以上嫌いにならないために、必死で自分の思いを隠し続ける。
 周りに同調して、空気みたいに溶け込めばいい。
 もういっそ、透明人間になれたらどんなにいいか……。
「亜里沙ちゃんおしゃれだから、色々教えてほしいな」
「いいけど、亜里沙の好きなブランドの持ち物、真似したりしないでよねー」
「私じゃ、真似しても亜里沙ちゃんみたいにはなれないよ」
 貼り付けた笑顔と褒め言葉を、額面通りに受け取ってもらえたら、もうそれでよかった。楽だった。
 しかし、私のそんな嘘だらけの日々に、いきなり水を差す人物が現れたのだ。
「お前なんでそんなに本心と違うことばっか言ってるわけ?」
 驚きうしろを振り向くと、そこには、一度も話したことのない大人しいクラスメイト・岸野明人君がいた。
 彼は長い前髪に眼鏡姿で、雪のように白い肌をしていて、いつもぼそぼそと喋る地味な印象の生徒だ。成績が優秀だったため彼をからかう生徒はいなかったが、どう接したらいいか分からない生徒にカテゴライズされていた。
 そんな彼に、たった今、突然針のような言葉を背中から刺された。
 口を開けて間抜けな顔をしている私に、岸野君は再び言い放つ。
「気持ち悪いんだけど、その笑顔」
「え……」
「可愛くないって思ってるんなら、そう言えばいいじゃん」
「な、なんで……」
 岸野君の一言は、まるで私の心の中を見透かしているようだった。
 動揺した私は、否定することも忘れてその場で黙りこくる。
 その様子を見た亜里沙ちゃんは、あからさまに不機嫌な声をあげた。
「何それ、そんなこと陰で思ってたの? 柚ちゃん!」
「ち、違っ……」
「言っとくけど、その地味なリュック、超ダサいから!」
 誰かの怒りをこんなにまっすぐぶつけられたのは、初めてのことだ。