そのまっすぐすぎる瞳に自分が映ると、何かずっと責められているような気持ちになる。俺はそれから逃げたくて、わざと三島を傷つけるような言葉を放った。
 三島は心の中では俺に対する怒りに燃えていたが、出てきた言葉は冷静だった。
「お前……本当に人の心がねぇよな」
 まっすぐな憎悪の感情が響いてくる。彼の瞳には、怒りの感情と、失望の感情、そのどちらもが混ざりあっている。
 ――人の心がない。それはまさに、俺の人間性を的確に言い表した言葉だと思った。
 俺は、人の心が読めるからと言って、人に優しく生きてきたわけじゃない。
 どんなことを言ったら一番相手が傷つくのか。距離を置けるのか。そんなことばかり考えて、生きてきたのだから。
「……お前の大会記録なんか、ゴミにしてやるよ」
 三島は最後にそう吐き捨てて、右足を若干引きずりながらグラウンドに戻っていった。
 真夏の茹だるような熱気が、セミの鳴き声とともに脳内を侵食してくる。
 去っていく彼のうしろ姿を、空っぽの気持ちのまま見つめていた。

 空虚な状態のまま正門に向かうと、もう帰ったと思っていた志倉が、珍しく誰かと待ち合わせていることに気づいた。
 鞄を持ったまま、チラチラと周りの様子をうかがっては、何やら楽しそうな雰囲気を出している。
 あらぬ噂を立てられていることもあり、なんとなく彼女に近づかないように門から出ようとしたが、志倉が待ち合わせている人物を見て固まった。
「柚葵! お待たせ、暑かったでしょう」
 ショートカットでボーイッシュな姿は、小学校のころから変わっていない。
 名前は思い出せないけれど、彼女を見た瞬間、ドクンと胸の中がざわつくのを感じた。
 人の顔は一度見たら忘れない質なので、彼女が小学生の頃の同級生だということは確実だった。
 志倉といまだに連絡を取り合っている同級生がいたのか……。
 そのことに驚きながらも、不審に思われないように、俺はふたりのうしろを静かに通り抜けようとした。
 しかし、ふと待ち合わせていた彼女と一瞬目が合ってしまい、その瞬間相手の中で憎しみの感情が一気に燃え上がるのをひしひしと感じた。
『まただ。“アイツ”にどこか似ている男』
『名前はクラスメイトの成瀬だと聞いたけど、名前も全く違うから、他人の空似かしら』
『もし、“アイツ”本人だったら――殺してやりたい』